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◆対談の経緯 |
鏡 | まずはこういう場をつくってくれてありがとう。 | ||
なべ君 | いえ、こちらこそありがとうございます。 まず読む人に向けて、今回の企画が実現した経緯などを簡単に振り返りたいと思うのですが、よろしいでしょうか? もともと私が、鏡さんのシナリオ教室にもの申すなんていう変なコンテンツを作ってサイトにアップしてたのが大元ですね。 で、そこに鏡さんからメールが来て、私はぶったまげた。 |
鏡 | 暇な人だったのよ、おれは(笑)。 | ||
なべ君 | 公開して1年ぐらい経ってたかなぁ。本人すっかり忘れてて、あちゃーっと。 その時何度かメールのやりとりがあって、また最近鏡さんからメールがあった。 で、私の方から「じゃ、鏡さん今度対談どうですか?」とお願いして、今回このような形で実現した、といった感じですね。 |
◆シナリオライターの形態 |
なべ君 | で、まず、鏡さんはシナリオライターということですけど、具体的にはどういう風なお仕事になるのですか? 例えば、こういうモノ作りたいけど、書いてという感じなのでしょうか? |
鏡 | いろんなケースがあるね。 たとえば、ぼくの場合フリーランスという形を取っている。 |
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なべ君 | フリーランスといいますと? |
鏡 | つまり、エロゲーのシナリオライターには3つ、形態がある。 1つ、ソフトハウス(会社)に所属しているもの。 2つ、フリーランス。つまり、ソフトハウスに所属せず、小説家や漫画家のようにひとりでやっているものね。 3つ、シナリオライターばかり集めている集団というかエージェントみたいなところがあって、そこに所属する。 |
なべ君 | へぇ〜、面白いですね〜、そういうのが成り立つということが。 |
鏡 | 蛇の道は蛇というからね(笑)。 ともあれ、シナリオライターとしては、形態としては3つあるわけ。まあ、ほとんど2つなんだろうけど。 フリーランスの場合、自分企画と他人企画があるわけ。自分が企画したり持ち込んだりする形と、クライアントの依頼(企画)を受ける形。 シナリオライターを集めたエージェントの場合、クライアント(ソフトハウス)から来た依頼(企画)に応じてシナリオを書くという形になる。つまり、他人企画ね。 で、ソフトハウスに在籍していた場合は、多くの場合、上から出された企画にしたがってシナリオを書くという形になる。 細かく言うと、フリーと同じ2パターンがあると思うのよ。自分が制作上のトップである場合──たとえばプロデューサーを兼ねている場合──は、自分で出した企画のシナリオを書くことになる。自分が一介のシナリオライターである場合──下っぱである場合──は、上でつくった企画に合わせてシナリオを書くことになる。下っぱがどれだけ企画に参加するかどうかは、ソフトハウスによりけりだね。首脳陣2、3人で決める完全トップダウンもあるし、スタッフ全員で決めるところもあるし、一様ではないのよ。 |
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なべ君 | 企画に参加しないと、まさに下作業になるわけですね。 |
鏡 | なるね。自分がイリュージョンに在籍していた頃は、それに近かった。 | ||
なべ君 | それって、なんか窮屈そうに映ります(^^;; |
鏡 | 窮屈だよ(笑)。社長がつくった企画があって、それに準ずる形でキャラをつくってシナリオを書いていくわけだからね。書き出す瞬間は窮屈。でも、書いていけばキャラも馴染んで走り出してくるから、そんなに窮屈というわけじゃない。他人企画の中におもしろさを見つけていくのもまた、書き手の仕事。 それに、いろんなものを書かされるから書き手として鍛えられる。そこは圧倒的にプラスの部分。イリュージョン時代に一番書き手として鍛えられたと思うもん。 書き手としてはまったく無名で量産体制の中に組み込まれてしまっていたけれど、それでもいろんなお話、いろんなキャラを書く環境にあったというのは、後々のことを考えると凄くプラスだったと思う。適当でいいやって流して書いたりしなかったこともね。そういう、自分の境遇や給料に対するボイコットとして本気を出さないというのは、駆け出しの頃には一番危険なことだからね。発育時に煙草を喫うと身長が伸びなくなってしまうのと同じように、才能という身長も伸びなくなってしまう。 |
◆初心者が企画に回されない理由 |
なべ君 | でも、最初はみんなそう(他人企画)なのかな。 |
鏡 | そういう方が多いと思う。入社してすぐまともな企画を立てられるということは少ないからね。 | ||
なべ君 | 常識的に考えれば、でも、そうですよね。例えどんな業界でも、いきなり好きにはさせてくれない。 |
鏡 | そう。なぜかというと、まともな企画を立てるためには、市場、つまりマーケットというのをある程度認識していなければならないわけ。けれども、入ったばかりではマーケットなんか見えないから、まともなものを立てることは難しいのね。 | ||
なべ君 | いわば、修行、下積みのような感じですね。 |
鏡 | うん。イリュージョン時代は自分にとっても下積みだった。毎日届けられるユーザー葉書の登録もしていたし。のべ4000枚。 でも、そのおかげでユーザーの声にじかに接し、ユーザーに触れることができた。ユーザーのことを常に考えられるようになったのは、あのユーザー葉書の登録のおかげ。本当にいい体験だった。シナリオの方も2年間在籍して12本書いたしね。 |
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なべ君 | それって多くないですか? |
鏡 | 多分、多いと思う。その代わり、1本あたりの容量が少ないからね。最低で1ゲームのシナリオ70KBというのがある(笑)。ちょうどCD-ROMに移行していった時代だったからね。 1本あたりの最大でも、12人の女の子が出てくるゲームで1MBだったかな。 原稿用紙カウンターというのがあってね、だいたい1MB書くと1600〜1800枚ぐらい書く計算になるのよ。 |
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なべ君 | 普通の市販小説だって、400KB とかせいぜい 700KB とか。 |
鏡 | でも、『プリズム・ハート』の小説も300とか400KBという数字なんじゃないかな。だから1MBのシナリオというと、小説4冊分ぐらいになるわけ。 | ||
なべ君 | なりますね。 |
◆企画の視点 |
なべ君 | 企画ってのは、どういう視点から出てくるんですか? つまり、市場を第一に見据えた企画なのか、「こういうのがやりたい」ってのか。 |
鏡 | 流れとしては2つあると思う。 1つは、すでに受けているものを自分の業界と他の業界(コミック、アニメ)から拾ってきて、受ける要素、受けるキャラ配列、受ける世界観、受けるゲームを組み合わせて形作っていくもの。 もう1つは、やりたいことがあって、それを市場と照らし合わせてより多くのユーザーを獲得するように──つまり売れるように──成形していくもの。 |
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なべ君 | 鏡さんとしては、どっちですか?(笑) |
鏡 | 後者の方。 | ||
なべ君 | おお〜〜〜。 |
鏡 | なんだ、そのどよめきは(笑)。 | ||
なべ君 | いやー、私はそういう方が好きですから。やりたいこと、ってのはクリエイティブの原点だと思ってるんですよ、私は。ただ、無論全部やりたい放題っていうほど甘くないから、すり合わせってのが出てきて、そう考えると、今の2つの中なら後者かなぁと私は思ったんです。 |
鏡 | でも、作り手としては古いタイプだと思うよ。 たとえば、近代的書き手というのと、ポストモダン的な書き手というのがある。 近代的な書き手というのは、訴えること、テーマ、主張があって、何かを言うため、何かを感じさせるために書いている。世界観というのも、物語世界の整合性ということも考える。つまり、従来から存在していた、ある意味古い、伝統的な書き手たちね。そういう人たちは、多分、「やりたいこと」があって、それを市場向けに加工していくというアプローチを取っていくと思うのね。 対して、ポストモダン的な書き手というのは、すでにある既存製品でウケているものを組み合わせてひとつの形をつくっていく。そこにテーマも主張もない。いわば新しいタイプの書き手。 でも、近代的物書きが古いから悪いというわけでもないし、ポストモダン的書き手が新しいからいいというわけでもない。良い/悪いという次元とは、両者は違うところにあるわけ。それはスタイルなんであってね。 自分の場合は、それが自分という精神に合うから古い、近代的な書き手のスタイルを取っているだけなわけで。ただ、正確に言うと自分の場合は「やりたいこと」ではなくて「やってみたいこと」なんだけどね。 |
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なべ君 | 「やりたいこと」と「やってみたいこと」の違いってなんですか? 後者の方が試みるって印象が強いですけど、語彙では。 |
鏡 | 「やりたいこと」ということには、市場のニーズというのは入っていない。自分の中の渇望、希求だけ。 「やってみたいこと」というのは、市場を照らし合わせているところがある。こうしてみるといいんじゃないか、おもしろいんじゃないかっていうね。 |
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なべ君 | そうやって、(分けるべきものを)分離するって大切なんですよね。 |
鏡 | つくり続けていくうちにそういう分離、違いというものに意識が向かってしまうんだろうね。結局、ものを書くというは自分を書くこと、つまり、自分の内部を書くこと、自分の内面に向かうことだから。 | ||
なべ君 | でもきっと、それに気づくことと気づかないことは大違いですよ。 |
鏡 | それはある。決定的にある。 |