◆存在しない会話 99.9.5




 
アニメには、いな、フィクションには、日常生活では絶対に使わない言葉がある。
 たとえば。

 「あれは4年前のことだった――」

 回想シーンの決まり文句。
 登場人物が昔のことを思い出すときに、必ずこの言葉で始まる。
 けどさ。
 みんな、日常生活で使ったことある? たとえば二十歳以上になって、中学時代のことを話すとき。
「あれは中学のときだった。わたしのパパはサラリーマンで……」
 なんて言う?
 絶対使わねえええ!
 これって、元々小説のなかで、主人公が自分の過去を「語る」ときに使う決まった言い回しだよね。「台詞」じゃなくて「語り」。地の文に近いわけよ。それを「台詞」で使っちゃうのって、安易というかいい加減というか、無神経すぎないか? 小説の言語でしゃべるやつなんかいねえぞ。いたら、そいつは絶対に頭がおかしい。

 他にも使わない言葉はある。
 たとえば、主役が絶体絶命の危機に陥ったとき。だめかと思われたその刹那、愛のパワーで復活、光とともに大変身を遂げる! すると、悪役が戦き、顔を覆いながら言う。
 
 「なんだ、この光は」

 あのさ、めちゃめちゃ眩しいわけでしょ?
 眩しいのに、「なんだ、この光は!」なんて言う? ずいぶん落ち着いてないか? すげえ分析的。
 普通さ、眩しいときって「うわっ、まぶしい」しか言わないよ。それか「うわっ」。それ以外何も言えない。たとえば実際の例考えてみようか。夜にうちで電気消しててさ、目が闇になれちゃってるとき。いきなり蛍光灯つけたらどうする? 「わっ……まぶしい」でしょ? 「なんだ、この光は」なんて言ったら間違いなく爆笑よ。

 日常生活で決して使われない「台詞」。
 19世紀の小説でやるのならまだいいけど、20世紀も尻になって、さんざんフィクションで使い古されたカビの生えた言葉使うのって、ケツ青いぜ。手垢のついた表現どころか、もう腐ってる。そんなの使ってるから、レベルが低いって言われるんだよ。
 もっとまともに会話書こうぜ。

タイトル一覧に戻る



トップページに戻る