61.「開演前」
 「別にどこへ行くってわけでもないんだけど、ただ歩きまわってる。心理的に高
ぶって、ステージに近づきたくない!と思ってしまうんだ。どうしてオレは今夜ここ
で歌わなくちゃいけないんだろう。でも歌わなくちゃいけないんだ。そんなことを
考えて決心がつかない。会場に戻ってきてもすごい顔つきしてるらしくて、誰も口
を聞こうとしない(笑)。用意をして、ステージに立って、スタッフがスタート位置を
ペンライトで照らしてくれる瞬間まで、そんな気持ちが続きます」
「GB」(1984/9月号) 18歳 04/05/18
 デビュー前と後での彼の違いは、自分が考えたり悩んだり思ったりしたことを
歌にしたものを、人前で聴かせるかどうかってことなんだと思います。彼の歌っ
ていうのは普遍性があるかってことよりも、その瞬間に思ったことを素直に曲に
したってものが多いと思うんですけど、その思いは生きてゆくうちに二転三転し
ていくものだろうし、もちろん歌いたくないっていう日もあるだろうし・・・それでも
精魂込めて人前で歌いつづけなければならない。ここにそんなちょっとした彼の
辛さが出てますね。これはシンガーソングライターすべてに言えることかも・・・。
 
140.「回帰線」
 「”卒業”の長さってのもありますし”存在”の字余りってのもあるし(笑)。”存在”
なんかの詞を書くにあたってはノート一冊使ったぐらいで。その1冊分の重みが
出てるかどうかは別にしても、やっぱりある意味では重いでしょうね。僕もトータ
ルして聴いてみて、『うわぁ、生々しい』って感じましたから。それを腐りかけたも
のと取るか、新鮮だととってくれるか。(たわいなく聴けるポップ・ソング風のもの
を入れたりして、気を抜く部分を作ろうということは)一切なかったですね、僕は
冷たいんです(笑)。とにかく最低これだけのことを言いたいんだっていうのはク
リアしたかったから。そういったところで、すごく生々しい面が出せたというのは、
自分勝手でよかったと思ってます(笑)。ちょうど節目にあたる自分の生々しさ、
何ものにも身を委ねられなかった自分を出せたんじゃないか、と」
「ロッキング・オン」(1985/5月号) 19歳 06/05/27
 確かに陽射しがあたってるかのような温かさを感じる1stアルバム『十七歳の
地図』に比べ、この2ndアルバム『回帰線』には夜の闇の中にたたずむような、
そんな印象を持ってしまいます。普通アルバムって内容の重たい曲もあれば軽
い曲もあって、そのバランスで一枚を構成してゆくものなのだろうけど、彼の場
合は一貫して歌詞の量が多いし、逆にいえば無駄な曲が一切ないんですよね。
その分、彼のアルバムはBGMになりえるようなものではなくて、強いて言えばリ
スナーが息を飲むようにプレーヤーと向き合って対決する(笑)そんな印象がボ
クの中にはあるんです。彼が言ってるように、この『回帰線』はすごく彼の個性
が出てるっていうか、心の奥底からの想いがすごく出てるなあって気がします。
 
82.「街路樹」
 「いつも作品を作っていく時、これがひとつの節目になればと思って作っていく
部分というのがすごく強くあると思うんです。そういった意味であの(事件の)こと
が節目になった。僕自身のことだけで済めばよかったんだけど、すごくみなさん
に迷惑をかけたという・・・その節目が、いい作品を作って聴いてもらいたいと精
神的に追いたてたり、励ましたりしたんじゃないかと思うんです」
「GB」(1988/10月号) 22歳 04/06/08
 ボクにとって彼の全作品中で、聴いていてもっとも悲しくなってしまうのがこの『
街路樹』というアルバムなのです。曲調とか歌詞がどうのというんではなくて、全
身全霊をこめて10代の頃の自分のイメージを払拭しようとしている気が、このア
ルバムからはしてしまうんです。もっとも長い月日をかけ製作し、中断し、また製
作したアルバムなのに、皮肉なことにボクにとってメロディーがもっとも響いてこな
いアルバムでもあるんです。そこに彼の苦悩や葛藤がこめられている気がして、
それが未完成のまま収録されてる・・・そんな気がしてしまうんです。
 
51.「核(1)」
 「今回の曲にしてもものすごくヘヴィーだなって思う部分も結構あるんだけど、ヘ
ヴィーであることを受け入れられる心の余裕みたいなもの・・・人が持ち得る勇気と
そのうまく言いつくせない何か不安感とかおびえみたいなものをまず最初に歌い
たかった」
「パチ・パチ」(1987/10/9) 21歳 04/05/08
 12インチシングル『核(CORE)』は、9分以上にも及ぶ大曲なのですが、後にアル
バム『街路樹』に収録されるものに比べ、このシングルの『核』は彼の全身全霊を
込めたようなボーカルが印象的な楽曲です。彼はヘヴィな状況を受け入れられる
心の余裕を歌いたいと言っていますが、この楽曲を聴くかぎり、彼に余裕は感じら
れません(笑)。ただ世の中が”平和”にどっぷりと浸かっていて、実はその中に潜
んでいる危機というものにみんな気づいていないっていう苛立ちをこの曲には感じ
ました。
 
52.「核(2)」
 「あの曲を作り始めたとき、僕が思ったのは、1人の人に本当に愛してるって伝え
るためには、僕の”愛してる”って言葉は、何か(街の中で自分ひとりが何かにおび
えているっていうような)ヘヴィーなものなんじゃないかなと僕は思ったんですよ。こ
の『核』は何かもっとヘヴィーな、僕の・・・在り方の中に”愛してる”っていうことが在
り続けたのが、この曲を作る要因になったとは思いますね」
「パチ・パチ」(1987/10/9) 21歳 04/05/09
 彼にとって”愛してる”っていう言葉は安易に言えるような、そんなに簡単なものじ
ゃなくて、もっともっと自分が追いこまれて、危機的状況になって・・・それぐらいヘヴ
ィーな状態で初めて言えるって言ってるんだと思います。それだけ彼の中では”愛し
てる”って言葉は重大な一大事なんですよね。その”愛してる”っていう意味を表現し
ようと自分を追いこんだ結果があの荒々しいボーカルになったのかもしれませんね。
 
40.「価値観」
 「ボクの言おうとしてることとかボクが考えてとりつこうとしてる夢とか愛、真実とかって
いうものは、今まで自分が学校や、生活してきたなかで学んできた愛や夢っていう価
値観で判断してしまったら絶対にたどりつけないと思うんだ。だから(愛や夢、真実を
話し合える機会を)持つように心がけていくことからまず始まっていくんじゃないかな」
「パチ・パチ」(1986/1/9) 20歳 04/04/27
 「夢」「愛」「真実」・・・友人と話してる中でこういう単語が出てくるのってなかなかな
いですよね。おそらくこういう話題っていうのは少し遠ざけているような気が自分でも
します。すごく大事なこととはわかってはいても、そこには「恥ずかしい」とか「照れ」
っていうのももちろんあるけど、なんとなくその場の雰囲気には合わない気がしてし
まう。でもやっぱりそういうことを話せてこそ、真の友人になれるとも思ってるんです
けどね。そうすれば今まで自分が思いも寄らなかった考え方や想いっていうのもわ
かるし、そのテーマに自分がより深く入ってゆけるような、そんな気がするんです。
 
95.「葛藤」
 「僕がレコード屋さんにレコードを買いにいったときに、ちょうど僕のレコードを予
約しに来た若者がいたわけ。その若者を見たときに何か匂いを感じたのね。何か
こう、うしろめたい気分で僕のアルバムを予約しているような。何かこう、自己の葛
藤がある人しか買わないレコードだって気がした」
「GB」(1991/1月号) 25歳 04/06/21
 確かに彼の音楽は、聴いて癒されるというものではなくて、聴いて「う〜ん」と考
えるっていうような楽曲が多いのかもしれませんけど個人的にはやっぱりすごい
メロディーメーカーだったなあって思ってるんですけどね。ボクはどんなにいい歌
詞が書かれていてもメロディーが響いてこない楽曲には苦手意識を持ってしまう
んです。だけど彼の曲にはそれがほとんどないんです。確かに彼の曲に共感す
る人たちには自分の心に葛藤を持つ人が多いのかもしれないんだけど(もちろん
ボクも含めてね(笑))曲を聴いて楽しむという点から観ても、ボクはすごい人だと
思います。でもあからさまには「彼のファンだ」とは公言してないなあ(笑)。
 
23.「完売」
「あの売れる売れないっていうのは共同作業で、その中で、いかにモノを作りあげ
ていくかがボク自身の作業なんですよね。ボクは、正しいことは正しいって伝える
手段を持てるだろうかって考え続けてきたし、今も考え続けてる。その伝えるって
ことと売れるってことは同じであって違うところが必ずあると思うんです。だから驚
くとか驚かないとかってことは・・・」
「パチ・パチ」(1985/8/9) 19歳 02/05/17
 大阪球場でのライブ(2万人)のチケットを即日完売してしまった彼は、それについ
て「あくまで”尾崎豊のライブ”は、いろんな人の協力で努力した結果、完売というこ
とになった」と、敢えて自分もそのプロジェクトの一員に過ぎないと答えている。フツ
ーなら自分自身のおかげだと思ってもおかしくないのに。その客観的な視点が、あ
れほどの熱いライブを演出しているのだろうなあ。

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