57

「風穴」

03/06/19
「ザ・クレーター」シリーズ 少年チャンピオン(昭和44年9月17日号)
 主人公はプロのカーレーサー。ただ彼には奇妙な趣味があった。それは「ユカリちゃん」と呼ぶ等身大の人形を
肌身離さず持ち歩き、なんとレース時にも助手席に乗っけて競技するのだ。学生時代からの親友で同じカーレーサ
ーの酒井一夫は、彼がその人形を持ち歩くようになってから仲が悪くなっていった。その人形が乗っているかぎり、
その人形に気が散って自分が彼に勝てないというのだ。富士でのレースを終えたあと、主人公と酒井は人形につ
いて、話のケリをつけようと富士の風穴の中へと入ってゆくのだが・・・。この主人公、とても異色な趣味の持ち主で
すね(笑)。でももしかしたらその人形は「孤独」という名のプレッシャーから逃れるための暗示なのかもしれない。
このあと物語は一転、酒井との友情物語となる・・・はずだったのだが、衝撃のラストが待ちうけているのです・・・。
81

「嚢(ふくろ)」

03/07/14
漫画サンデー増刊号(昭和43年5月10日号)
 ある青年は映画館の前で雨やどりをしているリカという少女に「喫茶店へ行って雨が止むのを待たないか」と声を
かけた。見るからに好みだったその彼女に青年はハイキングに行く約束をして別れた。そしてハイキングに来て彼
女にキスをした青年。だが彼女にちょっとした異変が・・・。彼は彼女と結婚しようと彼女の家へと行く。しかしその家
にはリカという娘はなく、まるでリカ本人だが性格も好みもまるで違うマリという娘がいただけだった。双子でも二重
人格でもないマリに、青年はリカの存在がどういうものだったのかわからなくなってゆくのだが・・・。まるで『ブラック
ジャック』のピノコが生まれた時のような衝撃が走るが、悲劇である分こちらのお話の方が衝撃は上だった。たとえ
身体の一部分だけしかない身だったとしても、もっともっと生きたいと願っていた命はここで絶たれてしまった・・・。
54

「二つのドラマ」

03/06/16
「ザ・クレーター」シリーズ 少年チャンピオン(昭和44年8月10日号)
 たった1.4kgの人間の脳髄の中にある人間の心のトビラをテーマとした短編シリーズ「ザ・クレーター」の第1作。シ
カゴのスラム街でスリをして生計を立てていた少年・ジムは、ある日仕事中(←スリ(笑))に誤ってトラックにはねら
れてしまう。再びジムが目を開けると、彼は東京の豪邸に住む隆一という少年に変わっていた。ジムと隆一との挟
間を何度も行き交ううちに、ジムはまじめに働いて、しがらみのあるこのシカゴから脱出しようとし、アメリカに留学
させられた隆一は縛られた生活に嫌気がさして飛び出してゆく。そしてあろうことかこの二人がスラムの街でひとり
の少女をめぐって対峙するのだが・・・。まったく自分とそっくりな人間と出会ってしまうドッペルゲンガーという現象
かと思いきや、この物語の主人公はジムでも隆一でもなく、まったく別の人物だったのだ。人の心は深すぎる・・・。
48

「ブタのヘソのセレナーデ」

03/06/07
週刊少年ジャンプ(昭和46年5月24日号)
 日本でも核兵器がつくられるようになったある年の物語。ビルの上から首をつっていた少年ゴスケは、どんなこ
とをしてもいいからとにかく有名になりたかった。その時、「どうせ死ぬんなら私が命を預かるわ」と、彼を引き上
げた巴博士は、なんと彼の体に核爆弾をしこみ、甦らせてしまったからさあ大変・・・。国家はなんとか彼を引きと
めようとし、暴力団は相手を震えあがらせる兵器として彼を利用しようとし、そしてなんと国外からも彼には追っ手
が・・・。そんな中、彼はひとみという心美しい少女と出逢い・・・。ギャグマンガっぽく流れていくストーリーだが、実
はヘソに核兵器を仕込まれていたのは・・・。そしてゴスケが「ひとみ」という女の子に生きがいを見つけた、その
時・・・。手塚さんらしい、ちょっとオトボケな主人公。だけどラストにはあっと驚く悲劇が用意されているのです。
46

「二人のショーグン」

03/06/05
週刊少年サンデー(昭和54年1月1日号〜2月4日号)
 有馬将軍(ありままさゆき)は勉強はからっきしダメで名前に180度似合わない少年だった。県会議員の父親は
なんとか将軍を東大法学部に入れて自分の後を継がせたいと校長に金を積んでいるのだが、将軍にはその気は
さらさらない様子。ところがネコはとびきり大好きで、捨て猫を40匹も飼っていた。ある夜その中の一匹でピンクレ
ディと呼んでいるネコが「あなたに変身してあなたの代わりに学校へ行って、東大に入れるようにしてあげます」と
しゃべった。精霊と出会い、言葉と不思議な力を授かったピンクレディは将軍として学校へ通い出すのだが・・・。
父親への反抗、クラスメートとの確執、学歴社会からの逃避、そして恋。さまざまなことを経て将軍は大人になっ
てゆく。結局どこかで楽をしてもそれは実にならないってことなんだよな。不思議と少年時代の心に戻れる一編。
39

「ふたりは空気の底に」

03/05/29
プレイコミック(昭和45年4月11日号)
 ある水槽に愛し合う2匹の熱帯魚がいた。ところが心無い人間が餌を入れる場所に煙草を置いたため、その水
槽の水は毒の水になってゆく。どこにも逃げ場のない2匹の熱帯魚は、生まれ変わったら再び出会って結ばれよう
と固い約束をして息絶えた。場面は変わり19XX年、日本の空をとつぜん青白い光りがきらめき、多発性核ミサイ
ルによって、人類は終焉を迎えたかに見えた。ところが、あるユニットカプセルにはふたりの赤ん坊が・・・。ジョウ
の最後のセリフ「ぼくたちが今度生まれるなら・・・こんなにごった空気の底じゃなくて、あの広い星の世界のどこか
に住みたいねえ」というのが心の残る。広い場所に見えるこの世界も、地球という水槽の中であることにすぎない。
もし核が世界中に広がった時、この世界は逃げ場のない水槽と同じ。とてつもない悲しみがこみあげてきます。
66

「ブルンネンの謎」

03/06/28
「ザ・クレーター」シリーズ 少年チャンピオン(昭和45年2月4日号)
 P中学の陸上競技部はその練習のキツさで有名で、極寒の中富士山を一周するという上、キャプテンはヒジョー
に厳しく、脱落者が多く出てもおかしくないのにそんな学生はほとんどいなかった。それはマラソンコースであるハイ
ウェイの途中にある「ブルンネン」という喫茶店にみどりちゃんというカワイイ娘がいて、みんな彼女に一目会いたい
という一心からリタイアする者がいなかったのだ(笑)。その中のひとり、オクチンは朝から熱があり、そのマラソンの
列から大幅に遅れて集団のあとを追った。ところが彼の目には、なんとさっき通り越したはずの「ブルンネン」が見
えてきたのだ・・・。彼は幻覚を見てたのだろうか?だけど子供の頃っていうのは、大人の世界では説明がつきもし
ないような事が起こるっていうのは何となくわかるような気がする。はっきりとは覚えてないけどボクにも覚えが・・・。

手塚ページへ   フェイバリット・コミックへ