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「バイパスの夜」

03/07/13
週刊ポスト(昭和44年10月10日号)
 ある男が深夜の箱根の山を越えるため、タクシーを待っていた。さんざん乗車拒否されたあげくにやっとつかまえ
たタクシーに乗りこんだ男。運転手は返事もせず行き先も聞かずそっけない。シ〜んと静まり返る車内に耐えきれ
なくなったその男はポツリポツリと話を始めた。実はその男は自分がその日現金輸送車から一億円を強奪し、警
備員を殺害して逃げてきた犯人だと告白したのだった。一方今まで一言も口を聞かなかった運転手もポツリポツリ
と話し出した。なんとその運転手は自分に隠れて若い学生と浮気をしていた女房の顔に今しがたアイロンを押しつ
けて殺してきたところだ。トランクには変わり果てた女房が乗ってる・・・と。やがて「人が悪いね」と笑い合う二人だっ
たのだが・・・。ラストをぼかしてあるこの作品の威力っていうのはすごい。ミステリーと呼ぶにはぴったりなお話。
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「八角形の館」

03/06/25
「ザ・クレーター」シリーズ 少年チャンピオン(昭和44年8月27日号)
 マンガ家・熊隆一は迷っていた。彼が学生時代、進学しようかマンガ家になるべきかを悩んでいた時、ある老婆に
渡されたコインを振ってマンガ家になる道を決め、そして成功した。だが、編集部の言われた通りに書いてきた彼が
初めて自分が書きたいと思って書いた作品が泣かず飛ばず。結局は人気は一気にガタ落ちた。その時彼は学生
時代に出会った老婆の「もしマンガ家をやめたくなったら、果てしなく西へ行き、八角形の館へ行け」と言われたこと
を思いだし、その館へと向かう。そこには今の現状とはまったく別の世界でプロボクサーになっている彼がいたのだ
った・・・。人は「あの時今とは別の道を選んでいたら、きっと今ごろ幸せの中に自分はいるんだろうな」と思っ
てしまいがち。でもいざその立場になってみれば、また同じことを思うかも・・・。心の迷いを描いた作品ですね。
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「はなたれ浄土」

03/06/04
月刊少年ジャンプ(昭和58年1月号)
 山原工一、通称ヤンバルクイナ。進化の上で弱いから、すぐ茂みの中に逃げこむような性格からそう呼ばれてい
たこの少年の家族は、ある山道の途中で売店を営んでいた。ところが新幹線の開通や区画整理のためお客さん
がめっきり途絶え経営は最悪、そしてはっきり決断できないのは父親に似たんだとすべてをあきらめいていた。あ
る寒い冬の夜、寒そうに凍えてるお地蔵さんを家に持ちかえって泊めてあげた工一は、夢の中でお地蔵さんに感
謝され、自分の化身の子供を明日山からよこすから、その子を泊めてあげたらきっとよいことが起こると言われ
る。そして次の日山から降りてきたのは、いつも鼻水をたらしている少年だったのだが・・・。今まで自分では何も
決めることができなかった少年が成長してゆく姿が見て取れる。結局最後は自分自身がどうするかなんだな。
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「春らんまんの花の色」

03/05/31
週刊少年ジャンプ(昭和47年4月17日号)
 「マンションOBA」の続編。遊園地のオバケ屋敷へ行った彼らオバケ一行は(笑)そこで自分たちの森を破壊しマ
ンションを建てたにっくき張本人・段丸に会う。やっとうらみを晴らす相手を見つけた彼らはマンションへ戻り会議
を開き、長老が段丸の会社へ行くことに・・・。しかしそこにはなんと記憶を消され田舎に帰ったはずのタカシがい
た。彼の田舎の土地も段丸に騙され権利を奪われてしまっていたのだ。段丸に復讐を誓ったオバケたちは夜なべ
で木の葉で一千億円を作り、タカシを先頭に立て、一騎打ちをすることになるのだが・・・。あれほどオバケたちに
威厳を持つ長老が人間を怖がる仕草がかわいい(笑)。ホントはオバケも人間も共存できる世の中になれば一番
いいんだけどね。オバケたちを野生の動物や木々たちとして見てみると、人間の勝手さが浮き彫りになるなあ。

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