6

「悪右衛門」

03/04/20
別冊少年ジャンプ(昭和48年9月号)
 むかし、摂津の国に嫌われ者の荒くれ武士がいて、人は彼を「悪右衛門」と呼んでいた。彼は上官の命令を何
でも聞き、そのためにすることはすべて正義だと信じていたが、人々からは残虐な殺し屋として恐れられていた。
しかしそんな彼も家に帰ると一人の優しい父親に戻るのだった。そんなある日彼の妻の「くずのは」に牢屋の男
を逃がした嫌疑がかかり、悪右衛門の上官に捕らえられ拷問を受け半死半生の姿で町を追われてしまう。上官
はこのことを悪右衛門に黙っていたのだが・・・。キツネ一族との絡みを経て、悪右衛門と呼ばれた人物は実は
純粋に生きようとした人物なのだと強調しておいての、この壮絶なラストが胸に突き刺さる。この「悪右衛門」は心
に残るキャラクターのひとり。それにしても手塚先生は実在の人物と絡める昔物語がホントにうまいですね〜。
24

「悪魔の開幕」

03/05/14
増刊ヤングコミック(昭和48年11月27日号)
 この国は首相の交代でとんでもなく閉鎖的な国になってしまった。国民は自由を束縛され、夜間は外出禁止、映
画・テレビ・新聞は検閲され、手紙も開封される。自衛隊ははっきり軍隊とされ、ついに日本は核兵器開発にまで
乗りだした。3年間続いた国民の反対運動も鎮圧された。そんな中その元凶である丹波首相を暗殺すべく、ある
思想家が岡重明という電気系の秀才に指令を出すのだが・・・。これは夢の世界の話ではなく、こんな国にこの日
本がなってしまう危険性というのは十分ありうる。アメリカのブッシュしかり、イラクのフセインしかり、国というのは
トップの意見がそのままその国の意見として世界に取り入れられてしまうもの。だから怖いんだよなあ。この作品
では最後にとんでもないどんでん返しが用意されている。う〜ん、手塚先生はミステリー作家としてもすごいのだ!
14

「安達が原」

03/05/03
月刊少年ジャンプ(昭和46年3月号)
 四等調査官・ユーケイの仕事は、大統領に抵抗する宇宙に散らばる輩たちを葬り去ることだった。流刑星に
住む、人肉を食べながら生き長らえている鬼女を抹殺する使命を受けた彼は、その星に降り立ち、故障した宇
宙船の乗組員を装って鬼女に近づいていくのだが・・・。能の劇「安達が原」を題材に、場所を宇宙に変えて描
かれた一作。大統領に忠実なユーケイも、昔はワンマンな国のやり方に抵抗し、反政府運動を指揮するひとり
だった。ところがいろいろないきさつがあり、今では革命後の大統領の手足となって働いていたのだった。その
間には、恋人と引き裂かれた悲しい想い出もあったのだ。自分が愛しい人を待ち続けるために、他人を犠牲
にする鬼女やユーケイを、誰が責められるのだろう?もしこれが運命なのだとしたら、ふたりは悲しすぎる・・・。
7

「雨ふり小僧」

03/04/23
月刊少年ジャンプ(昭和50年9月号)
 町へ出ると、山の分校に通っているというだけでイジメられるモウ太は友達が欲しくてしょうがなかった。ある日
カラ傘をかぶった子供の妖怪・雨ふり小僧に出会い、彼が欲しがっている長ぐつと交換に願いを三つかなえても
らうのだが・・・。昔は今ではのどから手を出しても手に入れられない輝きを持つものがたくさんあった。子供の頃
のどろんこの中で培った友情っていうのももちろんそのひとつ。そんな中で友情で結ばれたはずのモウ太と雨ふ
り小僧のすれ違いが悲しい。こんな子供どうしの中にも人間のエゴというか、人間の持つ悲しい部分を描き出す
手塚先生の手法のおかげで心に重傷を負いました(笑)。大人になると子供のときに見えていたものが見えなく
なるというのも悲しいが、現実なのかもしれない。これは仕方ないことなのだろうか?

手塚ページへ   フェイバリット・コミックへ