第6回 「男性キャラで締めよう!」
 

 さあ、今回はいよいよ、お待ちかねの野郎キャラだ。
 ――げろっ……幻滅ぅ……
 ちょっと待ったぁぁっ!

◆野郎は女の子キャラの引き立て役!
 よいか!
 野郎キャラは極めて重要なのだ! 女の子キャラだけでは話が引き締まらん!
 ──『パンドラの夢』は平気だったじゃん。
 あれは難しいの。それにループってネタがあったろうが。ただの恋愛物語じゃないの。
 よいか。ライバルあってこそ恋愛は萌えるのだ。
 見よ、『同級生2』を。女の子キャラの裏に必ず男あり! それを見せてくれるのがあのゲームだ。
 ――でもさ、最近のゲームはあんまり男が関わらないよ。
 恋愛がモノローグ的になってきているのだ。男という他者を切り捨てることによって、内向的・内省的に成立している。
 ――そっちのほうがいいんじゃないの? アダルトビデオで男が映ってるのいやだって子、美少女ゲーマーには多いじゃん。
 では、『同級生2』から男性キャラを取ってみろ。天道新幹線や芳樹を削除してみろ。どうなる?
 ――ぐ。
 ぐはは、つまらなくなるであろう。ライバルがいるほうが、恋愛は引き立つのだ。「勝ち取った」という充実感が生まれるのだよ。野郎は恋愛に張り合いと緊張感をもたらしてくれる。
 ――ぼくのお腹なんて全然張りないもんな。ほら、見て見てえ。ぶよんぶよん。
 でええい、見せるな! おれを殺す気か!
 ――えへへ。
 殺人的な腹をしおって。

◆野郎キャラは女の子との関わりが大切
 野郎キャラを書くときに大切なことは何か、わかるか。
 ――お腹のぶよぶよ。
 だれが腹だ!
 ――尻。ぼく、お相撲さんのお尻を見てると欲情するんだ。
 変態!
 おれはおまえの性的趣味を聞いておるのではない!
 ――わかんない。
 女の子との関わりだ! 野郎キャラの設定を立てるときには、どの子のシナリオと関わるのかを考えるのだ。

◆女の子との人間関係の絡みとキャラクターバランスを考えよう

 野郎キャラへの注意点は、だいたいサブキャラの作り方と同じだ。野郎同士のキャラクターバランスも大切だぞ。
 ――じゃあ、野郎3人全員デブとか。
 却下!
 デブ3兄弟なんざ、気持ち悪くて食えるか!
 ──でも、それでジェットストリームアタックをかけたら……
 気色悪い! 25歳未満がわからんネタを言うな。
 よいか。野郎キャラは、女の子との関わり具合が大切だ。それがキャラクターの存在理由を与えてくれる。
 ――存在理由って?
 キャラクターがゲームにいる理由だ。このキャラはこのゲームに必要だったんだなってことだ。
 ――ふむふむ。
 そのためには、女の子への関わり具合と、野郎同士のキャラクターバランスが重要になってくる。


投稿実例1

 では、実例を見ていこう。今回は厳しめに行くぞ。まずは、スターン君の投稿から。

名前:今井 章 (いまい あきら)
性格:普通。サボる勇気がないので授業にはついてってる
体格:身長172cm 体重63kg
特技:ギター(きたぁ!)。音楽の趣味はマニアック。ジャズ系。
恋:興味なし勇気なし。二次元美少女との妄想ライフにそこそこの
  充足を感じている。
ゲーム内のポジション:主人公の高校(中学)からの親友。佐野君が偶然今井君
のアイドル的存在のギタリストを聴いていた為、今井君が彼を離さなくなり、
その内親友に。三次元に興味がない彼に対してなら、佐野君も恋愛話を気がねなく話せるか!?


 一見してなにか思い当たることはないか?
 ――服装がない。
 そうだな、服装がないな。もし服装デザインは完全に原画家さんにお任せしますという場合は、「服装デザインはお任せいたします」と書いておけばいい。
 ――それ、あり?
 もちろんだ。ただ、そうするとあとで自分の感性に合わぬものが出来上がってきたときにリテイク出すときに大変だぞ。
 「話が違う! お任せするって言ったじゃないですか!」
 って、電話口で原画家さんに言われたらどうする?
 ――うぐっ。
 そうならないために、ある程度のガイドラインは必要だろうな。タカビーなら、高飛車な感じの出る服でお願いしますって。
 ――そうか。完全にイメージを放棄しちゃだめなのか。
 だめだ。イメージを伝える人、それこそがシナリオライター、ディレクターなのだ。

◆イメージを伝える人、それがシナリオライター
 さて、まず名前から見ていこうか。
 ──今井章。
 これはいいな。抜群にいい。サブキャラ、しかも刺のない友人ですという名前をしている。
 性格も体格もいいぞ。いかにも標準的だ。こういう心休まる普通のキャラクターが主人公の友人としては最も望まれる。
 ――なんで?
 主人公よりもかっこよかったり、キャラが立ってたりしてみろ。主人公が食われるではないか。
 ――あ、そうか。でも、こういうキャラ、『Fresh!』ではいなかったね。
 反省してます……。ついついアクの強いキャラクターばかりになって。
 ――心なごむキャラクターって、せせり先生ぐらいだもんね。
 剛剛剛だけでは疲れるんだよ。キャラクターはバランスよく取り混ぜると非常によろしい。これ、反省の意味をこめて。
 ――ねえねえ、実例に書いてある、「ゲーム内のポジション」ってなに?
 ゲーム内での役割だ。野郎キャラについては、ゲーム内のポジションをはっきりさせておくと、シナリオが書きやすくなる。
 ──なるほど。
 さて、実例に戻ろう。主人公と仲良くなるきっかけが書いてあるのはいいな。過去が書いてあると奥行きが出て話が作りやすくなる。
 ただ、今井くんの設定の場合、「今井の好きな音楽を主人公が聞いていたことから仲良くなる」と書いたほうがすっきりするだろうな。
 ――ふむふむ。じゃあ、結構完璧だね。
 いや。矛盾がある。
 ――どこ? デブじゃないこと?
 バキィ〜〜ッ!
 ──ぎょはあっ!
 おのれは男にも見境がないのか!
 よく見ろ!
 今井くんは恋愛に興味がないが、二次元少女との妄想ライフはそこそこ楽しんでおる。おかしいと思わんか。
 ――そうかな。
 二次元少女との妄想ライフを楽しんでおるのなら、恋愛に興味があるのではないか?
 ――でも、おれは二次元だけでいいや、三次元興味ないって子もいるよ。
 もちろんだ。
 しかし、その裏では、恋愛に対して興味があるのではないのか? それがただ潜伏しとるだけではないのか? 本当に恋愛に興味がないのなら、二次元少女との妄想ライフは楽しめぬぞ。
 ――それもそうだなあ。
 だからだ。「今は現実の女の子に対して興味がない」と書いておくのだ。そうすれば、将来は……? という含みを持たせることができる。
 ――なるほど。
 それからもう1つ。
 本人もクエスチョンマークをつけてるが「三次元に興味がない彼に対してなら、佐野君も恋愛話を気がねなく話せるか!?」、ここについてはどうだ?
 ――できるんじゃない?
 話をするなら出来るかもしれんな。でも、それは三次元に興味がないからではない。人の話を黙って聞いてくれる彼の人柄によるものだ。
 ――ふむふむ。ボクチンみたい。
 なんだと?
 ――う、うそです。
 よかろう。
 今井くんに恋愛の話をできるのは、彼の人柄のおかげだ。しかし、アドバイスをくれる相談相手となると疑問だな。
 ――どうして?
 今井くんは女の子と触れた経験が少なくて、三次元の女の子に対して興味がないんだぞ。「おれ、どうしようか迷ってんだけど、おまえどう思う?」っ
話振ってみろ。「おれ、興味ないから」「わかんない」「おまえ次第じゃねえの」と言われるだけだぞ。
 ――それは言えてる。
 では、相談相手にならんぞ。
 ――ううん。相談相手というのと、話を聞けるってのは違うのか。
 そうだ。恋愛相談に乗れるやつというのは、人生を達観しているようなやつが多いのだ。たとえ恋愛経験がなくともな。
 ――今井くんは違うよね。
 そうだ。もし踏み込んで恋愛相談の相手ということにするのなら、恋愛相談の相手としてふさわしい背景なり人格を創出してやらねばならん。


投稿実例2

 今度は輝龍さんのを見ていこう。まずは、友人タイプ。

1.草薙京介(くさなぎ・けいすけ)
森川学園3年。主人公のクラスメート。マジシャン志望で簡単なマジックができる。
明るく世話好き。特技は英語とカードマジック。
恋愛については自分より他人のことを気にするタイプ。
ヒマな主人公に何かにつけ、マジックの手伝いをさせたがる。
[性格]プラス指向で積極的。
[容姿]182cm、75kg
[服装]基本的に無頓着。黒を好む。


 友人にするよりは、にっくきライバルにしてやったほうがいい名前だな。
 ――うん、そうだね。
 性格・容姿については問題ない。服装も、野郎キャラだからいいだろう。ただ、名前がライバルしているのが気にかかるな。
 ――じゃあ、草薙俊介。
 うん、それなら友人タイプだな。主人公にしてもいいかもしれんが。

2.皆本 純(みなもと・じゅん)
森川学園1年。柔道部所属。中学の時は体が弱く休みがちだったので、
これではダメだとなけなしの勇気を奮い起こし、クラブ活動を決意する。
そのクラブ見学の折り、美紀に出会い、柔道部へ入部する。
美紀に対して、憧れに近い恋愛感情を持つ。
主人公を美紀の彼氏と思いこみ、うらやましく思っている。
母親以外との女性とはまともに話をしたことすらない。
[性格]内気でおとなしい。自信がなく、劣等感を感じている。
[容姿]158cm、45kg 眼鏡をかけている。
[服装]夏の私服:白のシャツにピケのワークパンツ
    冬の私服:グレーのチェックシャツに〃


 ライバルキャラということでの応募だな。弱々しくて頼り無いライバルキャラを狙ったらしい。
 ――名前はOKだよね。
 弱々しい感じが出ている。
 ただ、キャラがかぶるな。主人公は女に対して平気。スターン君の案では友人キャラは女に免疫なし。こいつも免疫なし。
 ――うっ。
 友人キャラを草薙にしたとしても、主人公は女に平気。草薙も女に平気。皆本は免疫なし。
 ――いいバランスじゃん。
 草薙の存在理由がなくなるぞ。皆本は美紀との兼ね合いで存在理由があるが、草薙がない。
 ――うぐっ。
 野郎キャラは何人も出せるわけではないからな。せいぜい、主人公以外で2人程度。だから、存在理由がはっきり
ていたほうがいいのだよ。少なくとも、誰との兼ね合いなのかってことがな。
 『ホワイトアルバム』を見てみろ。
 男キャラは2人だけだが、友人は大学の先輩との絡みで凄い重要。ディレクターの男は、メインのヒロイン2人を攻略するときに絡んでくる。
 ――ううん……男性キャラって難しいなあ。
 そうでもない。キャラクターバランスで考えていけば、全然問題なしだ。主人公がこうだから、こんなやつを出そう。そんな感じだ。

3.神無月 優人(かみなづき・ゆうと)

森川学園3年。理事長で(設立は明治に遡るほど由緒正しき)大病院院長の孫。
いわゆる地方豪族で通学時には護衛(本人の希望で女性)が付くほどの資産家。
通学は送迎車を利用せず、他の生徒と同じく電車で通学している。
在籍3年間、いずれも推薦により生徒会役員を務めている。
(推薦されることには慣れているので特に気にしない)
現生徒会長だが、後任人事の育成と称して副会長(2年)に仕事を任せるなど
気楽な性格。が、無責任という訳ではない。
子供の頃から爺さんに剣道を叩き込まれており、かなりの腕前を有する。
大会時には女の子を紹介させるかわりに助っ人として出場することもあるほど。
美人をみればデートに誘いたがる。例えそれが生徒指導の先生であっても。
本人は大学で中国史を研究したいと思っているが、周りはそれを許さない。
そんな人々にをため息をつきつつも、仕方ないかなと諦めている。
[性格]天気のいい日などは(学校をさぼって)デートしないかと護衛のお姉さんに
    話を持ちかけるなど、茶目っ気があり、あまり細かいことにこだわらない。
    ひなたぼっこを好むなどどこか子供っぽいところがある。
[容姿]189cm、80kg
[服装]夏の私服:淡いオレンジのTシャツにショーツパンツ
    冬の私服:白系のジャケットにワッフルニットとコーデュロイパンツ


 正統派のライバルキャラとしての応募だ。服装はいいぞ。
 ――うん、凄い細かくなった。
 実際に原画家さんに指示を出すときは、資料を添付するといい。「コーデュロイ」と言われても知らない原画家さんもいるからな。
 ――ふむふむ。
 さて、このキャラクターだが、主人公を妨害する典型的ライバルとしては、いまひとつ立っておらんな。
 ――なんか、憎めないライバルキャラだよね。
 ライバルにしては角がない。憎さがない。
 ――でも、憎たらしいだけだと腹立つよ。『Fresh!』みたいに。
 七瀬だな。あれはやりすぎだった。憎めない部分というのも必要だ。
 しか〜し。
 この神無月くんはまるでお気楽殿様ではないか。ライバルとは呼べぬぞ。むしろ友人にしてしまったほうがよさそうなキャラクターだ。
 ――キャラクターとしては、皆本のほうがしっかりしてたね。
 設定も細かい部分が気になる。通学時には護衛がつくのに、なぜ電車通学? 電車ほど守りにくいものはないぞ。
 ――ううん……。
 御曹司だけど憎めない子、というのを目指したんだろうな。その試みは実に面白い。評価に値する。しかし、キャラクターバランスを取っていなかったがために、実際に当てはめてみると使い道がなくなってしまう。しかも、女の子キャラとの絡みがないからな。
 ――存在理由がないってことだよね。
 そうだ。野郎キャラのなかのサブキャラになってしまっている。漫画や小説で出すのなら、たまらなく面白いキャラなんだがなあ。
 ――美少女ゲームだもんね。
 野郎はきわめて貴重なキャラクター資源なのだ。


助手の例

 おまえならどうする。
 ――ボクチンならこうするな。見て見て〜。

 1.出部太郎
  主人公の友人。
  【性格】ぼくちんに似て素直
  【体格】でぶ。
  ぼくちんに比べて全て劣る普通の男。

 2.出部次郎
  主人公のライバル。
  【性格】ぼくちんと違って厭味、高飛車。我田引水。
  【体格】でぶ。
  ことごとくぼくちんの恋愛の邪魔をする。

 おまえはふざけとるのか! ぐりぐりぐり!
 ――うぎゃあ、真剣なんだってばあ!
 なんだとお!
 ――冗談です、100%冗談ですぅ!


ひとつの手直し例

 決して助手のまねをしてはいけない。ユーザーがゲロを吐いて倒れてしまう。
 スターン君と輝龍さんから寄せられたキャラクターを使って野郎キャラを構成するとしたら、自分ならこのように手直しをする。スペースの都合上、簡潔だがご紹介しよう。

 1.今井章(いまい・あきら)
  主人公の友人。
  性格・体格の設定はスターンさんの通り
  【変更事項】付き合った経験はないが、耳学問で恋愛のことはまあまあ知っている。相談しても懇意になるというわけではないが、ぽつりと一言、警句を洩らす。
   音楽に夢中で、女の子には今のところは興味がないが、後に咲美に対して……。

 2.皆本純(みなもと・じゅん)
  主人公の同級生。
  設定はすべて輝龍さんの通り(このキャラはいけてる! 設定がしっかりしているので大切にしたい。ヒロイン美紀のシナリオの鍵!)

 ――エミリー・マークライツに当たる男がいないね。
 女4人に男3人は少し多いからな。最悪エミリーは野郎との絡みがなくてもシナリオを進められるだろう。
 もし作るとしたら、名前を草薙京介にしてこうするな。

 3.草薙京介(くさなぎ・きょうすけ
  主人公のライバル。
  【性格】自分がいちば〜ん!
  【体格】輝龍さんの設定通り
  【変更事項】護衛の女性にも次から次へと手をつけている女たらし。エミリーにも手を出そうとするが、エミリーは「相手を選んで」青春を 謳歌するタイプなので反発。「ワタシは、ヨーヘイのほうがいい」と言われてムキになる。

 

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