◆発売延期のメカニズム 2002.9.10
   
 とかくエロゲーの発売日は延期される。
 何しろ、発売延期がなければ優秀とされる世界なのだ。ショップの担当者が上長を説き伏せ予算を取って待ち構えているところへ、突然発売延期の凶報が雪崩込む。1、2カ月の延期はざら、中には1年以上という大物まである。内部状況を知っている者ならば予測もつくし心の準備も出来るが、開発状況を知らない大半のユーザーにとっては、度重なる発売延期は「ええ加減にせえよ」以外のなにものでもない。
 なぜ、こうなってしまうのか。プロデューサー、ディレクター、シナリオライター、営業を務めた経験と見聞を踏まえると、ゲームの発売が延期される原因はだいたい4つぐらいのようだ。
(1)シナリオ
  ゲームを遅延させる一番の原因は、原画ではない。シナリオである。シナリオはアドベンチャーゲームのすべての指示の源だからだ(コンシューマー世界と違ってエロゲーの大半はアドベンチャーゲームである)。
 たとえば、字コンテや絵コンテというものがある。原画家にこういう絵を描いてくださいと頼む指示書である。文章で書いたのが字コンテで、絵が書いたのが絵コンテだ。
 さて、 字コンテや絵コンテは、シナリオライターの仕事である。通常シナリオが上がってから書くのが理想なのだが、現実はそうはいかない。開発期間やシナリオライター本人の筆の速さの問題もあって、シナリオがあがる前に字コンテを発注しなければならなくなるのがパターンである。
 そういう場合は応急処置になる。 取り敢えず、現在出来上がっているまでのところで字コンテを出してしまうのだ。そして原画家が発注分を書き上げるまでの間にシナリオを全部書いてしまおうとするのだが、これがたいてい完成しない。
 かくして字コンテとシナリオのいたちごっこが繰り広げられることになる。字コンテをあげて、シナリオを書いて、でも進まない。進まないうちに原画家さんからの督促。「もう書いちゃいました」。ぐはあ。早く書かねば。でも、シナリオは進んでいない。進んでいない以上は字コンテを発注できない。いな、無理矢理ならばまだシナリオを書いていないところでも字コンテを出そうと思えば出せるのだけれど、あとで矛盾が起きるのは怖いし、書き手としてそういうことはしたくない。とにかく早く書かねば。そう思っているうちに日にちはすぎてゆく。かくして、やっとシナリオがあがってすべての字コンテを出し終わってカレンダーを見れば、デッドラインを越えている。どんな筆の速い原画家でも日程どおりにあげるのは無理だ。いな、あげたとしても、今度はCGが追いつかない。
 かくして、発売延期。
 ──また、次のようなパターンで発売延期になることもある。当初の開発期間では絶対無理なカット数をシナリオライターが原画家に注文した場合だ。シナリオライターが期日を読めぬ糞であると、こういうことがある。 まことシナリオの遅れは、開発遅延に直結しているのである。
(2)ディレクター
 ディレクターも、開発遅延の重要な要因である。ディレクターが日程管理できない人間だと──そういう人間の方が多いが──開発は間違いなく遅れる。
 日程管理というのは、原画が何枚で、CGが自社で一日何枚あがって、原画とシナリオがいつ全部あがって、プログラムがどれくらいかかって……というのを、電卓を使って厳密に計算し、毎日毎日進捗状況を確認し、遅延がないように指示していく仕事のことだ。
 だが、ディレクターが糞であると、厳密な計算をせず「何月何日までに出したい」と「希望日程」で発売日を告知してしまう。希望日程は現実の開発日程とは合わないので、当然ずれる。ずれは開発が進むごとに広がり、そのたびに発売日が延期される。
 また少ない例だが、突然ディレクターが行方不明になってしまったため、開発が延期になってしまうこともある(シナリオライターが逃げるということもある)。
(3)原画家
 自分がお付き合いした兼処敬士氏、八月薫氏、菊地政治氏のお三方とも期日を守る優秀な方で、開発が遅れることはなかった。
 しかし、そうではない原画家もいるらしい。原画家さんが期日を守れない人である場合、いくら字コンテがあがっていても肝心の原画自体が上がってこないためCGスタッフが作業できない。CGがないのではゲームはマスターアップできない。結果、発売延期となってしまう。
(4)社長
 途中過程では何も見ていないくせに、土壇場のマスターアップ間近になって初めてチェック、「違う! こうしろ! ああしろ!」と騒ぎだす社長がいるらしい。社長なのでどうしても至上命令になってしまう。結果、発売日が延期されてしまう。管理能力も器もない社長にかぎって、こういうちゃぶ台返しをする。まるで赤子と変わらない。
 ──ということで、最後に少々。
 発売延期をすればユーザーの期待度が高まりソフトが売れるという考えがあると聞く。一見説得力のあるような意見だが、発売延期に伴うソフトハウスの固定費の増加を考えると、そうは言えまい。1カ月延期すれば100万単位で金が飛んで行く世界なのだ。発売延期をしてユーザーの期待値をつり上げても、結局はマイナスに終わることの方が圧倒的に多いのである。
  発売延期は、ユーザーにとっては期待への裏切り行為である。それだけに発売延期をくり返されると、何度も期待させられて何度も裏切られた分だけ、怒りは爆発的に増大する。その怒りはまったくもって正当である。しかし、だからといって無根拠に誹謗中傷してよいものか。実際はシナリオの遅延によるものであるのに、頭に来たからといって「原画家のせいだ」と決めつけて糞味噌に言ってよいものか。それがキンタマに毛の生えた者のやることか。それは言説としてあまりにも妄論であろう。無根拠に誹謗中傷を書き込んだ者は永遠に筆を折るべきであろうし、また、それを看過して知らぬふりをした掲示板の総責任者は、己に卑怯者の烙印を押し、自らを罰して懺悔するべきであろう。
   

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