第12回 「プロットは必要?」
 

 だいたいのキャラの登場は終わった。次は……。
 ――ボクチンのかっこいいところをどう見せるか。
 バッキ〜〜ッ! まだ言うか、貴様〜〜!
 ――ぐはあ……久しぶりだからパンチも忘れていると思ったのに……。

◆プロットって必要?
 まず取っかかりの部分、ファーストシーンは終わった。キャラクターの顔見せはだいたい済んだ。
 となると。
 あとはラストへ向かってまっしぐらに続きを書くのみ! なのだが……。
 ――なにか問題あるの?
 あるのだ。何か大切なものを忘れていないか?
 ――お財布?
 あらまあ、肝心なものを……って、誰が買い物をすると言った!
 ――鍵?
 お父さん、リビングのドア閉めて……って、戸締りじゃな〜い!
 ――ガスの栓かな。
 おや、コックをひねるのを忘れてた……って、ちが〜〜う!
 プロットだ!
 ――あれ? 必要なの? イマジネーションの赴くまま、勢いで書いちゃいけないの? 小説家にだって、プロット書かない人いるよ。推理作家の内田康夫さんとか、久美沙織さんとか。
 うむ。プロットは絶対必要というわけじゃない。
 ――いらないんだ。じゃ、省略ということで……。
 待てぃ。

◆プロットの流れとテーマは最低把握しておこう
 ――なに?
 プロットは必要でない場合もあるが、プロットの流れとテーマの把握は必要だ。
 ――プロットとテーマの把握?
 自分の書いているシナリオが、どんな方向に向かっているか、目指すものは何なのかを把握するってことだ
 ――どうして? どうして把握しなきゃならないの。面倒くさいじゃん。
 あのな。
 エロゲーのシナリオを書くのって長いのよ。短くても1カ月はちまちまと書き続けていることになる。長いと……半年もシナリオを書いていることになる。
 ──うげ。
 そういう状態だとな、だんたん書いているうちにストーリーに埋没して忘れてしまうのよ。ゲームのコンセプトも、シナリオのテーマも。何を楽しんでほしいのかとか、誰がどうするお話なのか、っていうやつを。
 ――テーマって、高飛車なデブの女の子のハートをやわらげる、とかそういうやつね。
 ぐっ……相変わらず悪趣味だが、定義としては合っておる。
 テーマとは、物語の中で自分が何を書きたいのかだ。
 恋愛ゲームの場合、ヒロインとのどんな物語を描きたいのか、ヒロインとの恋愛でなにを描きたいのかということになるだろう。
 ――前の復習だね。でも、テーマがわからなくなったらまずいの?
 たわけ!
 ──うひっ!
 何を書きたいのか、何を書いているのかわからんのに書いたらどうなる! それで面白いものが出来るか!
 ――で、でも、ひょっとすると「あれえ、これ、なに書いてんのかわかんな〜い、訳わかんなくておもしろ〜い」なんてことになるかもよ。
 なるか!
 バキイッ!
 ――ぐはあ……今日2発目ぇ……。
 よいか。たとえプロットを書いていなくても、絶対にテーマの把握は忘れるな
 ――グスン。はい。でも、もうひとつの「プロットの流れ」って、なにをどう把握すればいいの。

◆プロットは3つのポイントで決まる
 確認事項は3つだけだ。これはプロットの3ポイントでもある。

 1つ。「状況」
 2つ。「展開」
 3つ。「結末」

 ――ううん、わかんない。
 では、もう少し具体的にプロットの3ポイントを言い直そう。

 1つ。「状況」……最初にどんな状態だったか。
 2つ。「展開」……どんな事件が「状況」に変化のきっかけを与えたか。
 3つ。「結末」……最後にどうなったか。

 ――ううん、少しつかめてきそうな……。
 では、恋愛ゲームの場合で言おうか。
 1つ。最初にヒロインはどんな状態だったか。
 2つ。どんな事件がきっかけで、ヒロインと関係に変化が起こり始めるか。
 3つ。ヒロインとどういう結末を迎えるか。
 ――お。おお。わかりかけてきた。
 よし、では例を挙げよう。
 たとえば、『Fresh!』のせせり先生の場合。

 ●テーマ 天然ぼけ教師とのちゃらんぽらんなコミカルインターネット恋愛。
 プロットの3ポイント
 1 「状況」 せせりは彼氏がいなくて寂しくてたまらないが、学校にはいい男がいない。自分が教師として適しているのかどうかにも悩んでいる。
 2 「展開」 インターネットを始めたことがきっかけで、あるメール友達に惹かれていく。
 3 「結末」 メール友達と会ってみたら、教え子であった。学校でも主人公に惹かれていたせせりは関係を結び、愛を告白する。


 ――やっとわかった。
 わかったか。では言ってみろ。
 ――「状況」っていうのは、ヒロインがどんな状況で、どういう精神状態にあり、どんな悩みを持っていたか、なんだね。
 そうだ。
 ――「展開」っていうのは、どんなことがきっかけで、ヒロインとの関係がどんなふうに変化していきますかってことなんだね。
 そうだ、いいぞ。
 ――「結末」ってのは、どういうラストを迎えますかってことなんだね。
 ブラボー!
 その通りだ、弟子よ。こいつは序破急ってやつに近い。
 ――序破急? それって、急行とか特急の一種?
 ただいま3番線に序破急が参りま〜〜す……って、んなわけないやろ!
 おまえには序破急ではなく、お灸だ!
 ――いや〜ん、やめてえ、熱い〜〜〜!
 わはははは! もっともがけもがけ〜〜!
 ――あん、ああん、いやあん、とっても利く〜〜〜っ!
 おげえ……悩ましい声をあげるな。
 ――もっともっとお〜ん、もっと熱くして〜〜ん!
 やめろお……。

◆「初めの状況」「変化のきっかけ」「結末」を把握しよう
 ――だいじょうぶ?
 寄るな、気色悪い。
 よ、よいか。
 序破急というのはだな、雅楽とか能楽でいう大切な3つの構成のことを言うのだ。
 「序」は導入部。「破」は細かな変化を含んだ、ゆっくりした展開部。「急」は動きの速い終結部。
 ――あ、似てる。
 そうであろう。
 だから、プロットの3ポイントをこう言い換えてもいいかもしれない。
 「初めの状況」、「変化のきっかけ」、「結末(急展開)」
 ――あ、そっちのほうがわかりやすいかも。
 プロットを立てない人も、最低限、これだけは把握するようにしよう。
 ついでにこれをシナリオの冒頭に書いておくと、忘れないでいいかもしれない。

 

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