『 巨乳学園 』




 ローマの円形競技場コロッセウムのように、段丘状の席が中央の円い緋色のマットを円

形に取り巻いていた。

 ローマの時代に中央で観衆を湧かせていたのは剣奴たちだったが、性暦二一一五年のい

ま、観客の注目を集めているのは一糸もまとわぬ姿で睦み合い戯れる男と女だった。

 技比べのフィナーレを飾る、「愛の舞」である。

 緋色の上で競技をしているのは、色道をはじめて十年近くになる、ベテランといっても

いい二人であった。

 男は二十八ほど、女はそれより年下で二十五ほどだった。

 色道に入って知り合ったという仲で、近々結婚することが決まっていた。

 その二人がいまお互いの秘部を愛撫しあっていた。

 四十八手でいう「椋鳥」、俗にいうシックスナインである。

 夢彦とみどりは、控えの部屋から二人の様子を食い入るように見守っていた。

 「愛の舞」は、二人が共同してはじき出した快感指数の最高値と、家元を含む五人の審

判の判断によって評価が決まる。審査員の評価は絶対評価に近いものであったが、前後の

舞のレベルに多少左右されるところもあった。

 出番を次に控えた夢彦とみどりにとっては、いまマットで愛し合っている二人の動向は

気になってしかたのないものだったのだ。

 睦み会っていた二人に、突然変化が現れた。

 ふいに男が女の秘部から顔を離し、うめき声をあげたと思うと、ほとんど同時に女もく

わえていた男のものを離し、声をあげたのだ。

 二人は同時に身体をふるわせた。

 男のものから白い流れが飛びだした。

 女はぶるぶるっと身体をゆさぶり、背中をそりかえらせた。

 どよめきが起こった。

 二人は、ほとんど同時にオーガズムを迎えたのだ。

 シックスナインは、お互いが同時にお互いを愛撫できるという強みがあるが、相手の顔

がわからないという弱みがある。二人が同時にオーガズムを得るためには、相手の身体の

反応を敏感に感じ取りながらことを進めねばならない。かといって慎重にことを進めたと

しても、どちらともが同時にいくという保証はなかった。ベテランでも、年に一度か二度

できるかできないかというほどの難しい技だった。

 奇跡に近い技とも呼ばれていた。

 その超技を、二人はやり遂げたのである。

 どよめきがため息に変わった。

 電光パネルが二人の快感指数を合わせた最高数値をはじき出したのだ。

 六六九。

 シックスナインでは異例の高い数値である。

 再び会場がどよめいた。

 夢彦の隣でみどりが指を噛んだ。

 表情は決してやわらかなものではなかった。

 やがて男と女は深く交わりはじめた。

 女はすぐに声をもらしはじめた。

 二人のリズムはぴったりと合っていた。

 シックスナインで快感が高まって、いささか昇り詰め方が早い感はあったが、絵のよう

に美しかった。

 やがて激しい声が二人の口からもれはじめ、ついに二人は同時に声を放った。

 男の腰がふるえ、女の背中がそりかえった。

 そして、二人はかたく強く抱き合った。

 美しいフィナーレだった。

 電光掲示板がめまぐるしく動き、MAXを表示した。

 七七二。

 八〇〇に近い高い数値に、三たび会場はどよめいた。

 二人は手を振り、手をつないでお辞儀すると静かに退場していった。

 その二人をもの凄い拍手が送った。

 ようやく拍手が鳴りやんだかと思うと、再び拍手が巻き起こった。

 それは新しく入場してきた二人――取り分け一際若い姿をした少年に向けられたものだ

った。

(以下、つづく)


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