◆Jの解放〜夏目理緒という運動〜 2004.1.11 鏡裕之  

 
 

 10年ほど前、乳房に対して意識改革を引き起こした女性がいた。
 彼女は運動家だったわけでも思想家だったわけでもない。彼女は、グラビアアイドルだった。
 90年にデビューした細川ふみえである。
 だが、彼女のブレイク──ブラウン管への登場によって、当時ティーンエイジャーだった女の子たちは「胸が大きいことは、男の子に対して魅力的な武器になるんだ」と気づかされた。胸が大きければ男の子に注目される。合コンでも人気だ。そのことを、当時思春期だった女の子たちは知ったのだ。
 かつて、巨乳はこの国では差別されてきた。美的基準からも「大きすぎる」として外されてきた。この国の性的テイストは、巨乳を受け入れるまでにはなっていなかったのである。
 けれども、細川ふみえのブレイクによって、男たちも女たちも巨乳を知った。村西とおるが考え出した「巨乳」という言葉は、AVから発信され、さらにトィナイト2の石川次郎氏が考案した「トップバスト+カップサイズ」の表記といっしょにメディアに乗って瞬く間に日本を席巻し、市民権を得た。巨乳の市民革命だった。
 そして、それから10年余。
 この国の巨乳意識は、爆乳を受け入れられるまでに成長した。それを象徴するかのように出現したのが、2002年の夏目理緒、Jカップの奇跡だった。
 90年代までは、巨乳といっても、許されるのはDカップやEカップ。がんばってもFカップだった。Gカップ以上となると、奇異として見られてしまう。巨乳という枠組みを飛び出していたがゆえに、その大きさゆえに過剰に注目され、爆乳は肩身が狭い思いをしてきた。この国の巨乳意識は、爆乳のレベルまでは追いついていなかったのだ。青木裕子のブレイクも、ブラウン管までは届かなかった。
 だが、国産の巨乳爆乳を紹介するエロ雑誌の度重なる紹介、優香、酒井若菜の登場、そしてイエローキャブの隆盛が下地をつくった。Fカップの小池栄子、HカップのMEGUMIがブラウン管で活躍し、巨乳と爆乳に対する認知度をあげた。特にMEGUMIのブレイクは、巨乳から爆乳へのムーブメントを促し、グラビア世界の爆乳化を促進した。MEGUMIは爆乳ブームの立役者である。彼女たちによって、今までAVでしか商品価値がなかった爆乳が、グラビアやブラウン管でも商品として認知され、もてはやされるようになったのだ。
 夏目理緒の登場は、まさにそのことを象徴するかのような事件だった。我がサイトに寄せられたアンケート調査によると、「どこからが爆乳ですか?」という問いに対する答えは、G〜Iカップである。Jカップはそれを超越する。にもかかわらずJカップの夏目理緒は受け入れられた。ブレイクした原因は、恐らく次のようなものだったろうと分析できる。
 1.MEGUMIよって爆乳化の流れが生まれていたこと。
 2.童顔とボインの組み合わせは、酒井若菜を竢(ま)つまでもなく、日本人が最も反応するパターンの1つであること。
 3.Jカップという驚異的なバストにもかかわらず、ほっそりとしたウエストであったこと(これがプランパーと呼ばれるふっくらした体形だったならば、事態は違っていたはずだ)。
 細川ふみえの登場によって巨乳が市民権を得ていったように、MEGUMIの出現によって爆乳は市民権を得ていった。そして、その流れは、夏目理緒に引き継がれている。
 細川ふみえのブレイクが巨乳の子たちの身体意識を解放したように、夏目理緒がブレイクしたという事実は、ひとつの運動となって、爆乳の子たちの意識を解放していくだろう。それは、いわばJの解放だ。
 Jカップまでインフレーションを起こした巨乳ムーブメントがどこまで進んでいくのか。すでに櫻井ゆう子というKカップグラビアアイドルは生まれているが、どんな方向へ進むにせよ、夏目理緒という金字塔が消えることはあるまい。

  個人的には、あまり業界に染まらぬうちに、いい女の子のまま引退してほしいというのがささやかな願いである。アイドルとしてではなく、女としても、女の子としても、よくあってほしいと思う。

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