オーストリア散策エピソードNo.051-100 > No.100
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オーストリアにもある人魚伝説
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デンマークのコペンハーゲンには「人魚の像」というのがありますけど、こういう伝説ってオーストリアの川にもあるんですよ。ただし、美しい人魚姫じゃなくて、けっこう年のいったむさ苦しい人魚おやじですけど。

オーストリア南部のケルンテン州ザンクト・ヤーコプという村の言い伝えによると、ヴォルフという農民がある日ドラウ川で下の絵のように冴えないおっさんの人魚を捕獲したのだそうです。普通の神経をした人がこんな気持ち悪い人魚を見たら悲鳴でもあげて逃げゆきそうなものですね。しかしヴォルフは物好きだったので面白がって家に持ち帰り、後日その人魚を村で見世物にしました。

オーストリアのおっさん人魚
ドラウ川の人魚

村人たちもヒマ人揃いだったので人魚の登場に大喜び。しかもこの人魚は大変な物知りで、村の最長老ですら知らないことをペラペラとしゃべり、人々をたいそう驚かせました。けっこうお調子者の人魚だったんですね。もちろんすこぶる人気者になったのはいうまでもありません。しかし、そのうちいいかげん見世物にされるのに飽きてきた人魚は、ヴォルフに「そろそろ川へ返しておくれ」とお願いをしました。

ヴォルフは物好きながら悪人じゃなかったので、なんだかんだ思いつつ結局人魚の申し出を受け入れます。で、ある日ドラウ川に向かうわけなんですが、その途中で墓場を通りかかったとき、そこにいた村人たちはまたいつものノリで人魚にそれぞれの墓の主の死因を訊ねてきました。人魚の答えはいずれも大正解。村人たちは改めて人魚のすごさに驚き、もっとあれこれ質問をしたくなりました。しかしそこで人魚はひと跳ねして川に帰り、永遠に人々の前から姿を消してゆきました。

なお、この人魚がいたとき村人たちはくだらない質問にばかりに熱中し、のちのち冷静に考えてみると大事なことは何ひとつ訊いてなかったのだとか。せっかく知恵者に出会えたというのに、なんとムダなことをしていたんでしょう?アホですね。

ところで、ケルンテン地方にはたくさんの湖があることから、各国に伝わる竜神やドラゴンの伝説も豊富にあります。その大半はどの国にも伝わるお話しと同様にマジメなものなんですが、私は1つだけ、すごくマヌケヅラの竜を見つけてしましました。

その竜の姿は下の絵のとおりです。顔がネコみたいで、しかも後ろ足がすごく貧相ときてますから、これを見たら驚くというよりも笑うのが自然な反応かと思います。この絵の中の男性も一応礼儀として両手を上げ驚きの口をしていますけど、その目は「なんだこりゃ?」という怪訝な表情をしていますね。本当は怖かったんじゃなく、バカバカしかったんじゃないでしょうか。

ケルンテン地方のネコ顔ドラゴン
ネコ顔のドラゴン登場!

さて、話しを元に戻しましょう。オーストリアの人魚がロマンスとまったく無縁だったことには、それなりの理由があるようです。いろいろ調べてみたところ、アンデルセンの人魚姫をはじめとする女性の人魚の伝説は、暗に見知らぬ異民族との結婚をタブー視していたことの名残りという説があります。ところが、オーストリアは内陸国ですから、ウィーンのような大都市は万年諸民族が混在状態で、異人種同士の結婚なんて当たり前でした。一方、東アルプスの山に囲まれた谷に住む人々は、隣りの谷と交流することすら困難でしたから、見知らぬ異民族とのロマンスなんてほとんどムリだったと思います。そんな事情もあって、オーストリアの人々は河童とか水の精のお話しに尾ひれをつけ、愉快な人魚おじさんの伝説で手を打ったんじゃないでしょうか?

◆参考文献Sagen aus Kaernten、Laender Petzoldt, Eugen Dietriches Verlag, Muenchen


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