紅葉の季節も今が盛りで、これからは野も山も冬仕度に入ります。自然環境に溶け込んで生きてきた日本人の中には、自然環境が冬に向かうにつれて、心が「鬱」的になる人が少なからずいます。何を隠そう、実は、私もその一人です。
心が暗く沈みがちになるこの時期が来ると、いつも思い出すのは、作家・五木寛之氏の「暗愁」についての文章です。当時のメモをたよりに再現してみますと、『暗愁とはどこより来たかも知れず、なぜなのかもわからないまま心に広がる愁い。
「明るく元気に、前向きに」というプラス思考がもてはやされるが、「悲しむ、嘆く、悩む」という感情も大事ではないか。
人は明るい気持ちだけでは生きていけない。暗愁もかかえて生きている。戦後60年、日本人はプラス思考信仰を握りしめ、経済大国、高度成長に向けて走り続けてきた。暗さの大切さを躁状態の中で忘れ、明るさ、笑い志向で来た「つけ」が一気に出ているのではないか。
暗愁という失った言葉の中から私たちにとって必要なものを振り返ってみることも大事だ。
暗いものに背を向ける生き方に疑問を投げかけている五木さんの心情に共感して、安堵しながらも、わが心の鬱状態を躁状態に近づける努力をするのが、私のこの時期です。 |
