04/04/2005

国家資格化の必要性


全国保健・医療・福祉心理職能協会
会長  宮脇 稔


@ 国家資格化の必要性

医療保健領域で臨床心理技術者が仕事をするようになって既に50年以上が経過し、現在4,5千人以上が働いています。そして、傷病者の治療やリハビリテーションの支援にチーム医療の一員としての役割を果たしながらも、医療の世界にあって唯一国家資格のない専門職種となっています。心理職の国家資格化の必要性については、この10年の間に数度に亘り国会において附帯決議がなされ、厚生科学研究の助成によって臨床心理技術者の国家資格のあり方に関する研究が続けられてきました。この研究の最終報告は平成13年度末にまとめられ、医療保健領域における臨床心理技術者の国家資格の必要性が明確に位置付けられました。

臨床心理技術者の臨床業務は、主に心理査定、心理相談、心理療法の3本柱で成り立っています。業務の専門性と責任性をきちんと担うためには、医事法制に則って資質を担保する国家資格制度が必要になります。

臨床心理技術者の業務は、症状と密接に関係している複雑な心理学的諸要因を明らかにして診断の精度を高めたり、ストレス脆弱性を補うための適切な技法による援助介入に寄与する機能を提供し、チーム医療の機能の向上に貢献できるものと確信します。しかし現状では、無資格であるがゆえに保険診療によるケアやケアマネージメントに参画することができません。このことは傷病者やその家族にとっても不利益をもたらしている状況であると認識しています。

以上のことから、全心協は国家資格を創設することで、自らの専門性と責任性を明確にし、チーム医療の一員として傷病者に対して、保険診療に基づく臨床心理業務を提供できることを切に要望する次第です。


A 全心協の主張

1 チーム医療体制に臨床心理技術者は不可欠の職種です。
医学モデル、社会学モデル、心理学モデルなどによって、傷病者の身体、精神、社会・環境、実存の各領域を包括的に捉え援助する体制によって、診療の質を高め、安定したケアを提供することが求められています。

2 医療保健領域では現行の医事法制に則った資質の規定と位置付けが基本となります。
傷病者を対象として診療の一部を担っているにもかかわらず、国家資格がないために、人体に及ぼす危険性についての責任が不明確な現状が続いています。

3.国家資格が無いために診療報酬による経済的裏付けがありません。そのため、臨床心理技術者の雇用が促進されず、傷病者からのカウンセリング等の心理学的援助を求める高いニーズに応えることが出来ません。

4・資質を担保する資格制度の創設が必要です。
現在医療保健領域では、4,5千人の規模で臨床心理技術者が勤務しており、その歴史も50年以上に及んでいますが、未だに業務の質を担保する国家資格がありません。同様の経過をたどっていた言語聴覚士や精神保健福祉士も平成10年に国家資格化され、臨床心理技術者のみがその流れから取り残されている現状です。

5.現在の臨床心理技術者は、国家資格が無く身分が保証されていないために解雇される不安が常にあり、責任をもって傷病者やその家族と関わり続けることが難しい状況にあります。臨床心理技術者の国家資格がないことが、結果的に傷病者やその家族の不利益を招いています。

6.厚生行政において臨床心理技術者が活躍できる業務領域があります。

@ 医療保健領域で心理学的援助を必要とし、求めている傷病者がたくさんおられます。
A 初期段階からリハビリテーションの概念も含んだチーム医療の充実に貢献し、早期の社会復帰の可能性を高めることができます。
B 診断の精度を高め、精神療法の手段を多様化することにより、通院治療の可能性を高め、入院から社会復帰までの期間を短縮することができます。
C 精神科領域における入院患者の退院への働きかけに貢献できます。
D 家族が精神状態の安定に重要な役割を果たすとの視点を重視した、家族関係への心理学的働きかけができます。
E 人生のあらゆるライフステージにおいて、心身を総体として捉えた観点からの心理学的支援ができます。
F ここ4年続きの3万人を超える自殺者を減らすための取り組みの一つとして、心理学的援助が可能です。