全心協の歩み

T 資格化の現状と必要性
U 全心協の設立経過について
年 表


T 資格化の現状と必要性
 国家資格創設は新たな展開を見せている。
 前年度に取り組んだ心理士会資格案と全心協資格案の一本化は困難であると結論づけられた。4月以降はそれぞれ2つの資格創設を目指す方向で進めている。全心協は医療領域の資格化を目指してさらに具体的な活動を開始している。全心協の活動を受けて、4月には日本精神科病院協会(日精協)常任理事会があらためて全心協案をバックアップすることを確認し、5月には日精協傘下の病院に、全心協への入会を勧める通知が出され、会員数は徐々に増え600名近い会員数になっている。
 政府は三位一体の改革を推し進め、補助金の大幅削減を打ち出すなか、近い将来、精神、身体、知的の3障害を介護保険に統合する方向にある。その土台作りとして障害者保健福祉施策としてグランドデザインが示され、障害者自立支援給付法の成立が目指されている
障害者の社会復帰施設では、臨床心理技術者の存在意義は大きい。利用者の心理的な揺らぎや不安、緊張や戸惑いに寄り添って援助するかかわりを期待されている。しかし、今後の社会復帰施設の運営費は、施設が提供する支援、教育、訓練メニューを点数化する方式が採用される方向にある。臨床心理技術者の国家資格ができないままでは、そうした点数化の流れには、見守り寄り添って、ともに揺らぎつつ支援するかかわりが採用される可能性は低い。
 中でも精神障害者と臨床心理技術者のかかわりは歴史的にも長く、社会復帰への支援にもさまざまな機関や施設において関わってきている。その精神障害者の社会復帰を促進させるためのケアマネージメントを行う職種も精神保健福祉士が採用される可能性が高い。精神保健福祉士のこれまでの貢献と技能からその採用は当然であるが、臨床心理技術者が除外されてしまうことは残念である。訪問看護の診療報酬請求には精神保健福祉士の訪問が正式に認められた。医療観察法案の参与職も精神保健福祉士が登用される。しかし、そのいずれにも臨床心理技術者は対象から除外されている。こうした処遇は、臨床心理技術者がその任務に適さない職種であるからでなく、国家資格でない職種であるからに他ならない。
 ACT(包括型地域生活支援プログラム)は医師、看護師、精神保健福祉士等の多職種チームで、生活を中心に医療も提供する医療・保健・福祉サービスを重症精神障害者に提供するプログラムである。このプログラムの遂行には医療的援助と福祉的支援の両面からのアプローチが必要であり、その有効性を高めるための触媒や潤滑剤としても臨床心理技術者の役割は重要であると考える。しかし、資格のない現状のままでは、日本でのACT専門家チームの一員として、臨床心理技術者が参加することは非常にむずかしいことが予想される。
 国家資格への理念や理想は大切にしながらも、同時に現実的な対応や妥協できる道筋を具体的に探ることは重要であり、今はまさにその時期であると考える。医療領域の臨床心理技術者が、これ以上時代の流れに取り残されないためにも、全心協は一層気を引き締めて資格創設に取り組まねばならないと考えている。
気がつけば医療現場から臨床心理技術者が締め出されてしまっているといった、取り返しのつかない事態だけは何としても回避したいと切に願っている。

U 全心協の設立経過について
 全心協の会員が600名に近づいている。1993年設立当初100名弱の有志で設立されて、12年目で5倍強の会員数になった。
 そこで、全心協の活動に関心をもたれる方のために、全心協設立の背景と設立時の状況と経過を少しお示しすることで、全心協の活動と国家資格創設の取り組みへの理解を深めていただきたい。
 全心協設立のきっかけは1984年の宇都宮事件にさかのぼることができる。そこで宇都宮事件から2002年の厚生科学研究班のまとめが出るまでと、その後の資格化への取り組みの具体的内容を年表としても掲載しますので、理解を深める一助にしていただきたい。
 宇都宮事件は日本の精神科医療を根底から揺るがす事件であった。この事件を受けて、政府は精神科医療の方向性を、収容から治療へ、人権尊重へと変化させることとなった。「精神衛生法」が「精神保健法」そして「精神保健福祉法」へと変わる過程の中で、国の精神障害者に対する治療と人権への取り組みは大きく変貌してゆく。こうした流れの中にあって、当時の厚生省は無資格専門職種として精神科医療の担い手であった精神科ソーシャルワーカーと臨床心理技術者の職種の国家資格化を検討し始めた。
 全心協設立のために動いた発起人メンバーは、精神科医療の充実とチーム医療の推進のために必要な職種として臨床心理技術者を位置づけていた。そして、現場で働く臨床心理技術者の声を国家資格創設に直接反映させる必要性から、1990年(平成2年)12月に始まった厚生省臨床心理技術者業務資格制度検討会に参加する心理職代表を中心メンバーとして、医療・保健・福祉領域の臨床心理技術者の職能団体設立のための活動を開始した。
 当時すでに日本臨床心理士資格認定協会が臨床心理士の認定を開始し、財団法人となっていたが、文部省(当時)の認可団体であったため、厚生省との関係がぎくしゃくしたものであった。そうした状況ではとても現場の声を反映させる団体にはなり得ないとの判断から、新たな医療・保健・福祉領域の職能団体を立ち上げるために活動を開始した。当初の設立メンバーの大半は、現在と同様、臨床心理士である。
まず、資格制度検討会の検討内容を詳細に伝える会「国家資格を知る会」を組織し、全国行脚を続けながら、設立準備会を重ね、ニュースレターを発行し、2年後の1993年6月26日、東京都庁のホールにて約100名のメンバーで全心協設立総会を開催したのである。
 設立後、全心協は業務指針、倫理綱領、養成カリキュラムの検討を重ねながら、国家資格法案骨子の作成を続けた。そして立法府に働きかけて、臨床心理技術者の国家資格化の検討することを国会の附帯決議に盛り込むように要望した。行政に働きかけて、資格を検討する厚生科学研究班のメンバーに全心協からの代表を送り、2002年3月に厚生科学研究精神保健医療研究事業「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」終了まで続けてきた。
 その後の全心協の国家資格創設にむけての活動はニュースレターNo41以降に詳しく掲載している。

全心協は現在、以下の内容を中心に活動している。
@ ニュースレターを発行して、国家資格創設の実現に向けた情報を具体的に速やかに会員に伝える
A 国家資格の検討会、研究班、審議会に全心協から代表を送り、現場の声を資格に反映させる
B 医療・保健・福祉領域の臨床心理技術者に必要な業務指針、倫理綱領、養成カリキュラムを作成する
C 必要な教育、研修、情報宣伝活動を行う
D 国家資格創設を行政や立法機関に働きかけを行う
E 国家資格に必要な医療・保健・福祉の教科書作りを行う
F 国家資格創設のために関連領域の機関、組織、学会等との緊密な連携を図る

年 表
 以下に全心協設立にいたる時代背景と設立後の国家資格化への取り組みを年表にまとめた。
 精神医療情勢と連動した形の報告になっているが、精神科領域以外の医療現場にも多くの臨床心理技術者が活躍しており、全心協は医療領域全般の資格化を求めていることをご承知願いたい。
また、年表では2002年7月に厚生科学研究班の最終報告以後の資格化への取り組みについては、少し詳しく報告している。

1984年
(S59)
●「報徳会宇都宮病院」事件発生
病院職員による患者暴行致死事件が明るみで出た。日常的な暴力と恐怖による患者支配の実態が暴かれる中で、国際法律家委員会と国際医療職専門委員会による調査が行われ、日本政府は国際社会から精神科医療の人権侵害を訴えられた。こうした社会状況を踏まえて、政府は人権保障のために、「精神衛生法」を改め「精神保健法」を誕生させ、1998年同法は施行された。

1988年
(S63)
●「精神保健法」施行
精神保健法では、専門的医療を受ける権利や人間の尊厳を重視したケアを受ける権利、差別の禁止、任意入院制度の導入、通信面会の自由など人権擁護規定が不十分ながらも盛り込まれた。
また、患者の専門的治療を保障し、人権を擁護するための医療関係職種によるチーム医療の重要性もクローズアップされるようになった。

●日本臨床心理士資格認定協会設立
精神保健法が施行された同時期、日本心理臨床学会が、心理士の専門性の保証と質の向上のために臨床心理士資格を作るための認定協会を設立した。この動きに対し厚生省(当時)は臨床という名称を医療関係以外の領域で使用することに反発している。背景に臨床心理技術者を精神科ソーシャルワーカー(現、精神保健福祉士)と共に国家資格化し、精神科領域の専門職としてチーム医療の一員に加えようと意図していたことがあった。

1990年
(H2)
●厚生省臨床心理技術者業務資格検討会発足(3年間)
検討会のまとめ『臨床心理業務には医行為が含まれる可能性がある。国家資格化に向けてさらに検討を深めること』このまとめは厚生科学研究精神保健医療研究事業「精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の業務及び国家資格化に関する研究」に引き継がれてゆく。

1991年
(H3)
●厚生科学研究精神保健研究事業「臨床心理技術者の業務と養成の研究」(4年間)
齋藤慶子(現・全心協副会長)を中心に医療・保健・福祉領域における臨床心理業務について、その輪郭を整理し、臨床心理技術者の養成について検討し、一定の要件を提起した。

1993年
(H5)
●「精神保健福祉法」附帯決議(第126回国会)
『 精神保健におけるチーム医療を確立するため、精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討するとともに、精神保健を担う職員の確保に努めること』

●全国保健・医療・福祉心理職能協会(全心協)設立
1993年6月26日、100名弱の有志で設立された職能団体である。
医療・保健・福祉分野の国家資格創設に対応する職能団体として必要な事業を行う。

1995年
(H7)
●厚生科学研究精神保健医療研究事業(2年間)
「精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の業務及び国家資格化に関する研究」

●「精神保健福祉法」附帯決議(第132回国会)
『 精神保健におけるチーム医療を確立するため、精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討をすすめ、速やかに結論を得ること』

1997年
(H9)
●「精神保健福祉士法」成立
厚生科学研究での2年間の検討のまとめ踏まえて、精神科ソーシャルワーカの国家資格が精神保健福祉士として成立する。臨床心理技術者の国家資格は当事者である全心協と心理士会意見の合意が見られず、先送りとなる。

●「精神保健福祉士法」附帯決議(第141回国会)
『精神保健におけるチーム医療を確立するために、臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討すること』(衆議院)
『精神保健におけるチーム医療を確立するために、臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討を進め、速やかに結論を得ること』(参議院)

●厚生科学研究精神保健医療研究事業開始(3年間)
「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」

1998年
(H10)
●精神保健福祉士法施行
臨床心理技術者の国家資格ができず、現場の業務に制約が生じ始めたり、将来への不安から危機感を感じた多くの臨床心理技術者が、5年間の経過措置の間に精神保健福祉士資格を取得。また、臨床心理学を学んだ多くの学生に卒後就職先がなく、精神保健福祉士の受験資格を得るために専門学校に通う現象が続いている。

1999年
(H11)
●精神保健福祉法改正時に衆・参両議院で臨床心理技術者の国家資格創設を附帯決議

2000年
(H12)
●厚生科学研究精神保健医療研究事業(さらに2年間)
「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」

2001年
(H13)
●WHOサラチーノ氏のメモ
『心理専門職の位置づけを明確にするように』


<参考資料>
精神科病院におけるコメディカルの人数(平成13年6月30日調査)
臨床心理技術者  常勤 1455名  非常勤 651名   総計 2106名
精神保健福祉士  常勤 4171名  非常勤 149名   総計 4320名
作業療法士    常勤 3437名  非常勤 269名   総計 3706名

2002年
(H14)
3月
●厚生科学研究精神保健医療研究事業終了

7月
●まとめが出される。
(要旨)
@ 臨床心理技術者の国家資格は必要である。
A 資格を必要とする範囲は医療保健領域に限定する。
B 医療保健領域での業務には医行為が含まれ、医師の指示を必要とする業務がある。
C 国家資格は名称独占資格とし、医療保健領域以外の臨床心理業務を妨げない。

5月
〜7月
●民主党 櫻井充議員を中心に「医療現場の心理職の国家資格化に関する作業部会」を立ち上げ、厚生労働省および全心協、心理士会はじめ様々な関係団体(8団体)より国家資格創設に関するヒアリングを実施。全心協は6月14日にヒアリングを受ける。

6月
●自民党 鴨下一郎議員、民主党 朝日俊弘、櫻井議員に陳情

●公明党 草川昭三議員に臨床心理技術者の国家資格の必要性について陳情

7月
●自民党 「心理職の国家資格制度立法化についての勉強会」開催。鴨下一郎、根本匠議員を中心に6名の国会委員と2名の議員秘書が参加される。その場で18団体の連名で国家資格創設の要望書を提出。他党との連携も視野に入れて立法化に向けた取り組みが始まる。要望書に連名した多数の団体代表も参加

8月
●自民党 阿部正俊議員に陳情

●麻生太郎自民党政務調査会長(当時)に鴨下議員の仲介により医療領域での国家資格創設の陳情と21団体の要望書を提出。資格の必要性を理解されて、必要ならば自民党内のプロジェクトチームを組織することも検討。

10月
●公明党 福島豊議員に陳情。医療領域での国家資格の必要性について理解を頂く。

11月
●鴨下厚生労働副大臣との話し合い。年内に超党派の議員連盟を組織する予定。
 自民、民主、公明、社民、保守(当時)各党が参加予定。

12月
●河合隼雄日本臨床心理士会(以下心理士会)会長の呼びかけで横断的国家資格についての自民党議員に対する説明会開催。河合心理士会会長は現職の文化庁長官でもあり自民党議員内に動揺生じ、議員連盟立ち上げが困難となる。

●堀内総務会長を再度訪問し医療領域の国家資格の必要性に理解を頂く。

<参考資料>
精神科病院におけるコメディカルの人数(平成14年6月30日調査)
臨床心理技術者  常勤 1496名  非常勤 685名   総計 2181名
精神保健福祉士  常勤 4503名  非常勤 143名   総計 4646名
作業療法士    常勤 3832名  非常勤 287名   総計 4119名

2003年
(H15)
2月
●民主党 五島正規議員に陳情

●自民党 鴨下厚生労働副大臣、根本内閣府副大臣、河村文部科学副大臣(当時)より全心協および心理士会から国家資格に関する要望に対するヒアリング実施。

●民主党作業部会および厚生労働部会が民主党案の法案骨子(全心協案とほぼ同様の内容で、医療保健領域に限定した資格)を了承。

3月
●上野、安倍両内閣官房副長官に陳情

●自民党 阿部議員に陳情

4月
●日本精神科病院協会(以下日精協)が全心協の考えについて理事会で検討し、全面的なバックアップを決議。その結果、医療領域での心理職の国家資格制度創設に賛同する団体は23団体となる。

6月
●鴨下、根本両副大臣と精神保健福祉課、医事課同席のもと資格化の現状を確認し、法案のたたき台の検討に入る。

●中川秀直自民党国対委員長に陳情。速やかな資格創設に支持を頂く。

2004年
(H16)
3月
●自民党鴨下議員と現状確認。心理士会を中心に自民党議員を含め国家資格創設について擦り合わせを試みたが実らなかった。今後は医療保健領域の資格創設で仕切りなおしと考えている。
現在の23の要望団体を中心にしてさらに強固なネットワークを築いてゆく必要がある。

5月
●日精協傘下病院に全心協への入会を勧める通知が出される。

7月
●全心協会員数が560名を超える。

●参議員選挙で日本医師会西島常任理事が自民党議員として当選。国家資格創設に助力を表明。

●日精協会長、副会長、理事ほか関係者を含めた会合を持ち、国家資格創設を具体的に推進する団体を組織することを確認。

9月
●医療心理師(仮称)国家資格制度推進協議会設立を要望書連名23団体に呼びかけ。

●医療心理師(仮称)国家資格制度推進協議会準備会を7団体で開催。日精協三村孝一理事、ジョンソン&ジョンソン廣瀬省副社長のお二人が顧問に内定。

●医療心理師(仮称)国家資格制度推進協議会設立(推進協議会)。

10月
●鴨下議員が衆議院厚生労働委員会委員長に就任される。

●準備会団体に養成カリキュラム案を送付し検討依頼。

●日本医師会を訪問し、経過および資格の輪郭を説明。

11月
●民主党五島正規議員に陳情。議員連盟結成に向け党内をまとめていただくことを確認。

●公明党福島豊議員に陳情。議員連盟結成に向け党内をまとめていただくことを確認

●辻敬一郎日本心理学会理事長が「医療心理師国家資格制度推進協議会」会長就任。

11/16
●鴨下一郎衆議院厚生労働委員長宛「医療心理師国家資格制度推進協議会」より国家資格制度創設の要望書を提出。

●公明党厚生労働委員長福島豊衆議院議員宛要望書を提出。

●民主党NC厚生労働大臣横路孝弘衆議院議員宛要望書を提出。

●鴨下厚生労働委員長の呼びかけで資格法案策定に受けて関係者協議を開催。
自民党議員4名、衆議院法制局、厚生労働省医事課、精神保健福祉課、全心協。

12月
●推進協議会事務局所在地として日精協の協力をいただく。

●日本医師会青木重孝常任理事の顧問就任決定。

●鴨下厚生労働委員長の呼びかけで公明党、民主党を含めた協議。

2005年
(H17)
1/22
●「医療心理師国家資格制度推進協議会」総会開催

場  所:セントポール会館
出席団体18団体。40名が参加。会長、事務局長、顧問を正式に選任。
議  題:
1.経過報告
2.運営要綱・協議会運営経費・事務局体制の検討と承認
3.協議会会長・事務局長・顧問の選任と承認
4.資格法案における資格の定義についての検討
5.養成カリキュラムにつての作業委員会の設置の提案と承認

以上