2011/04/10更新

「全心協ニュース No.64」巻頭言

三団体共同見解まとまる


平成23年02月

全心協会長  宮脇 稔

はじめに

 全心協は1993年6月26日に東京都庁において設立総会を開催し、今年で18年となりました。個人の話で申し訳ありませんが、当時40歳であった私も既に58歳、厚生年金受給も目前に迫っている次第です。なんとか阿羅漢(アラ還)までに全心協の大きくて唯一の目的を達成したいと、年始初めにあらためて祈願もした次第であります。

 64号の巻頭言では以下の5つの報告を行います。

@ 全心協年次総会報告
A 全心協公開シンポジウム報告
B 『精神医療』61号(批評社)「精神医療における臨床心理」の報告
C NHKが心理職の国家資格化への取り組みを放送
D その後の動き


@ 総会報告

2010年度全心協総会は2010年11月14日午後1時より、錦糸町クボタクリニックの集会所で開催しました。
議案は第1号議案「2009年度事業報告」、第2号議案「2010年度事業計画」、第3号議案「2009年度決算報告および監査報告」、第4号議案「2010年度予算案」(すべてニュースレターNo63に掲載)のいずれにつきましても、参加会員の満場一致の承認を受け滞りなく終了しましたことをご報告します。


A 全心協公開シンポジウム報告

内容: 「心理職国家資格制度創設の最新状況を語る」
 〜今後の課題と展望〜


話題提供:
指定討論:
宮脇 稔 全国保健・福祉・心理職能協会 会長
織田正美 医療心理師国家資格制度推進協議会(推進協) 会長
鶴 光代 臨床心理職国家資格推進連絡協議会(推進連) 会長


11月14日午後2時30分より4時30分の2時間にわたり開催されたシンポジウムの概要を報告させていただきます。会場は錦糸町クボタクリニックの新築移転されたばかりの9階建てビルの小ホールをお借りして開催しました。シンポジストを含めて20名余りというこぢんまりとしたシンポでしたが、人数が少ない分だけ内容の濃いものになりました。

シンポは4部構成で、まず宮脇が1990年から2010年の20年余りに及ぶ心理職の国家資格創設の検討経過について資料を使って報告しました。次に、推進協の織田正美会長から法案のための5つのキーワードについて解説いただきました。その後推進連の鶴会長より日心臨学会として7項目の考え方が解説され、今後の取り組みの方向性が述べられました。その後フロアとの意見交換も行い、予定時間を大きく越えて2時間に亘るシンポが終了しました。

資格創設に向けた運動の経過報告
宮脇は資格創設のきっかけが、1984年の報徳会宇都宮病院事件に端を発した精神医療改革の歩みと軌を一にしていることを伝えました。そして厚生省(当時)が中心となって2001年度終了まで、10年余りの歳月をかけて国家資格創設に向けて検討しましたが、心理職当事者団体間の意見調整がまとまらず、政府提案の資格創設を諦めました。2002年以降は、推進協、推進連それぞれが議員立法での資格創設を働きかけ、2005年7月には2資格1法案として法案が出来上がりましたが、8月の郵政解散と共に法案提出が見送られました。その後、2005年以降も各団体間での話し合いは非公式に継続的に行われ、2009年からは推進協、推進連に日心連を加えた3団体での公式な会談が開かれるようになりました。回を重ねて第8回の会談でようやく下記に示します1資格1法案の基本コンセプト共同見解案にたどり着きました。そうした2010年11月までの経過を報告しました。

<資料 第8回(2010.8.8)3団体会談・基本コンセプト共同見解案>
資格の基本コンセプト
1.資格の名称: ○○心理士、心理士、心理師等が考えられる。
2.資格の性格: 医療・保健、福祉、教育・発達、司法・矯正、産業等の実践諸領域における汎用性のある資格とする。
3,他専門職との連携: 業務を行なうにあたっては、他専門職との連携を重視し,特に医療提供施設においては医師の指示を受ける資格とする。
4.受験資格: @学部卒+大学院(修士)修了者、A学部卒で数年間の実務経験をした者。

<三団体の要望意見についての調整案>
1)資格の更新制: 更新制のある資格とする。
2)経過措置: 経過措置として、
   @ 一定年数の実務経験を有する現任者
   A 一定の専門的基準をみたす資格の保持者は受験できるものとする。

織田 推進協会長
5つのキーワード(1資格1法案、3団体会談、基本コンセプト、カリキュラム、今後の課題)を用いて語られました。
<要旨>
まず、3団体会談は推進協の総会における、推進連と正式な話し合いを持ってはどうかとの提言を受けて、それまでの非公式でなく、正式な話し合いを重ねるようになり、その後2009年2月より日心連を調整役として3団体会談となっている。現在2010年11月で9回の会談を終了した。3回までの会談では2005年の2資格1法案の微修正で乗り切るための話し合いを進めたが、推進協、推進連ともそれでは無理であるとの検討結果となり、日心連の理事会の承認を受けて、第4回より1資格1法案として基本コンセプトの検討を重ねてきた。そして第8回において基本コンセプトの修正案(上記資料参照のこと)が検討され、現在3団体それぞれが団体に持ち帰り、修正案の検討を行っている。日心連は12月の理事会で承認の方向で進んでいる。
推進協では25の参加団体の意見を聞いたが、「3、他専門職との連携」に関して異論が出されており、12月2日の幹事会で協議する予定。異論の内容は、産業医や校医のいる場で、クライアントに主治医がいる場合には医師の指示に従うべきとの意見が2団体から出されている。
カリキュラムについては大学院カリキュラムが日心連の中で一本化できていない。基礎系中心、臨床系中心、折衷案の3通りが出ているがまとまらず、再度大枠の原案を委員会や常任理事会で検討することになっている。カリキュラムを考えるときには試験科目への影響も十分に配慮する必要がある。
しかし統一したカリキュラム案ができたからといって、そのまま法律のカリキュラムとなるわけではない。むしろ法案ができた後で、主務官庁のカリキュラム委員会に3団体から代表を出すことが重要である。
最後に今後の課題について。それは早期に心理職の諸団体が一本化すること。そして要望書を作成して官庁へのアプローチを開始すること。議員、政党への陳情活動を開始することと考えている。
そして、この資格創設を実現させることが、心理職の身分を保障し、待遇改善を図り、なにより国民に資するものとならなくてはならない。

鶴 推進連会長
推進連では3団体で検討した基本骨子修正案をベースに、いわゆる1資格1法案を実現させることについて努力していると説明され、今後、議員、政党、政府に働きかける道筋の検討が重要であると語られました。
<要旨>
推進連の1団体である日本心理臨床学会では、「国家資格の考え方(7項目)」を示すに至ったが、現在、その中の受験資格についてはさらに検討中である。それは、宮脇氏の提示した「3団体会談・基本コンセプト修正案」で言えば、「A学部卒で数年間の実務経験をした者」にあたるところで、学部卒での受験については期間限定的とすることの方がよいという意見が出ている。学部のみで受験できる制度になれば、現在の教育システムが大きく変わるのではないかと関係者は懸念している。推進連としても、受験資格は大学院修士修了を主なる受験資格とし、学部卒での受験については「経過措置期間あるいは当分の間」と修正する方向で検討している。国家資格の業務内容には、予防と教育を含ませたいとする意見が強い。
推進連では、国家資格の名称について、「臨床」という文言を付けた資格名称とする意見と、心理士ないし心理師でよいのではないかという意見があり決定には至っていない。現在検討している国家資格は、日本臨床心理士資格認定協会が認定している臨床心理士とは別資格であることは認識されている。
国家資格法制化については、3団体がひとつにまとまる必要がある。しかしながら、全てが決まるまで待ってから動くのでは遅い。概ね合意ができた段階で動き出せる部分は3団体で動き始める必要がある。今後は全心協を含めた広いつながりの中で、完全な合意に向けた努力を重ねながら、同時に資格実現のために具体的に動いてゆかねばならないと考えている。

フロアとの意見交換
医師の指示に関しては、「医事法制における国民に関わる領域においては医師の指示とするほうがよいのでは」とのフロアからの意見に対しては、「診療補助職としてではなく、名称独占資格として位置づけたい。政府提案となると他法との整合性が重要視されるとも聞いている。法制局とも検討していきたい」(鶴)と答え、その答えに対して「最終責任を誰が取るかという意味において医師の指示という考え方が必要ではないか」との意見も述べられました。
また、はるばる高知から来られた会員からは「チーム医療の職種に心理職がはいっていない。今後ますます重要になるアウトリーチにも心理職が入らなくなる可能性がある。認知行動療法も医師以外の職種が参加希望を出しているが、行政の頭からは心理職が抜け始めているのではないか?暢気にやってていいのかなぁという感想がある。どう考えますか」との意見が述べられ、さらに都の心理職員から「資格の山場は何で、その時期は何時ですか?」との質問もありました。

織田:既に今、山場にいます。医療団体の反対に遭うと、1資格でも潰れます。そうならないように推進協の合意形成はきちんとしなければならない。具体的な課題として、議員連盟の再編成を何時、どのようにするか。基本コンセプト、要望書をどのタイミングで議員や政府に持ってゆくか、既に山場は迎えている。いろいろな団体との調整を行いながら、要望書を正式に提出することが重要です。

鶴:こころの健康政策構想会議には心理職の人が正式メンバーとして入っていて、チーム医療への心理職の参入に努力している。しかし、国家資格となっていないこともあって、なかなか難しいところがある。日本臨床心理士会では強い関心を持って対応しようとしている。資格の山場については、山場は作らないと来ないと思う。民主党にも関心を示しアドバイスをしてくれる人はいるが、まだ、積極的な形にはなっていない。公明党はうつ病対策に積極的なので、国家資格創設に関心が高い。国民のメンタルヘルスに貢献するために熱意を持って取り組んでいきたいものである。

まとめに代えて
今回のシンポジウムは参加者こそ少ないものの、内容は画期的なものでした。なにより、これまで医療心理師の国家資格化を推進し、臨床心理士サイドとは対立する立場にあった全心協のシンポジウムに、推進連会長が快諾の上で参加してくださったことを先ずもって挙げておきたいと思います。
国家資格創設のために対立を超えて、互いに歩み寄る努力が生み出した大きな成果の現れであると痛感する次第です。
今後は全心協を含めた全ての心理職が当事者性を自覚して、広く国民のメンタルヘルスに資する国家資格として成立するように、小異を捨てて大同に向かうために、具体的で積極的に歩み出さねばならないと考えます。


B 『精神医療』61号(批評社、2011.1.10発売、1785円)で報告

特集「精神医療における臨床心理」に−心理職の国家資格−として全心協の立場から国家資格創設の経過、現状、今後の課題について詳しく紹介しました。この号には専門職の資格化に抵抗を感じている立場からの報告や日本臨床心理士養成大学院協議会(臨大協)による「1資格1法案」に対する反対声明なども掲載されています。特に臨大協の反対声明は3団体の「推進協」を「日本臨士会」と誤って表記をされており、経過の理解にも大きな誤りがあり、きちんとした組織からの意見表明にしてはお粗末な内容と言わざるを得ないのですが、その意味において一読する価値があるのかもしれません。


C 「クローズアップ現代」(NHK)で心理職の国家資格化への取り組みを紹介

全心協のシンポ開催の知らせをホームページから得たNHKのディレクターから国家資格化への心理団体の取り組みに対しての取材申し込みがあり、2010年12月23日、42学会が参加する日心連の理事会にNHKのカメラがはいりました。その様子が、2011年2月7日「クローズアップ現代−うつ病“心”から治せるか−」の放送の中で紹介されました。
放送では2010年度から診療報酬として認められている認知行動療法が、心理職が国家資格として認められていないために、担い手が不足して思うように広がっていない現状を紹介しています。


D シンポ前後の動き

2010.11.3
第9回3団体会談。3団体共同見解案の検討内容についてそれぞれの団体から報告。今後のタイム・スケジュールとしては、遅くとも年度末までには法制化の目処をつけることを目指す。3団体会談構成員で、官庁に資格法制化について相談に行くことにする。

2010.12.23
日心連理事会が開催され、第8回の3団体会談から提起された3団体共同見解(案)を修正のうえ承認。これまで一本化できていない大学院カリキュラム案は以下の基本的枠組みを示すことを承認した。
 ・心理職の人材像。
 ・カリキュラムについての基本的枠組み。
 ・カリキュラムに求められる知識および技術、カリキュラムに求められる学習の仕方。
 ・カリキュラムの基本構造。
 ・カリキュラム参考モデル。

2010.12.28
第10回3団体会談。3団体共同見解案を受けてさらに修正を以下のように加える。修正案について、三団体はそれぞれ2011.1.20までに検討を行なうこととした。

<国家資格についての三団体共同見解(修正案)>
 【資格の基本コンセプト】
1.資格の名称: 心理師とする。
2.資格の性格: 医療・保健、福祉、教育・発達、司法・矯正、産業等の実践諸領域における汎用性のある資格とする。
3.他専門職との連携: 業務を行なうにあたっては、他専門職との連携をとり,特に医療提供施設においては医師の指示を受けるものとする。
4.受験資格: @学部卒+大学院(修士)修了者、A学部卒で数年間の実務経験をした者も受験できる。
 【補足事項】
1.資格の更新制: 更新制のある資格とする。
2.経過措置: 経過措置として、@一定年数の実務経験を有する現任者、A一定の専門的基準をみたす資格の保持者は受験できるものとする。

2011.1.30
11回3団体会談。修正案を3団体で検討した結果、資格の基本コンセプト部分について合意に達したため、要望書にまとめた上で厚生労働省を3団体代表で訪問する事とし、スケジュール調整に入る。その後文部科学省を訪問し、国会議員へのロビー活動を始める予定。

<国家資格についての三団体合意点>
資格の基本コンセプト
1.資格の名称
心理師とする。
2.資格の性格
医療・保健、福祉、教育・発達、司法・矯正、産業等の実践諸領域における汎用性のある資格とする。
3.他専門職との連携
業務を行なうにあたっては、他専門職との連携をとり,特に医療提供施設においては医師の指示を受けるものとする。
4.受験資格
@学部卒+大学院(修士)修了者
A学部卒で数年間の実務経験をした者も受験できる。


2011.2
3団体代表で、厚生労働省訪問、国会議員へのロビー活動を開始予定。