2009/09/12更新

「全心協ニュース No.60」巻頭言

動き始めた資格化


平成21年6月

全心協会長  宮脇 稔

国家資格へ再び動き始める

ニュースレターNo60の発行が遅くなったことを最初にお詫び申し上げます。 昨年末よりこの間、国家資格問題で動きが活発になり始めています。 ある程度動きが落ち着いたところで、会員各位にお知らせしようとして発行が遅れてしまいました。 6月を迎えて状況がひとつの山を迎えましたので、6月10日現在までの経過と現状と今後についてお知らせし、情報の共有化を図りたいと思います。


ニュースレターNo.59(2008年12月)以降の動き

T 2008年12月23日(火祝)

日本心理学諸学会連合理事会において以下の内容が決議されました。
「日本心理学諸学会連合は、2資格1法案を支持する。 国家資格の早期実現を図るために、心理学界の意見を集約し、協調・共存案の立案に至る事を目的として、日本心理学諸学会連合は、心理系、医療系各団体との折衝および国会議員等への働きかけに向けて動き出すこととする。 なお、カリキュラムや資格の名称についてはさらに検討していくこととする。」


U 三団体による資格問題についての会談

上記決議を受けた日心連の呼びかけで、「三団体会談」が開催されました。 第1、2回では、「2資格1法案」の微修正による実現の可能性について、@資格の名称、A資格の性格、Bカリキュラムの3点を中心に、各団体の状況や意見・疑問点等が検討されました。 そして3月28日の臨床心理職側、4月16日の医療心理師側、それぞれの総会後の4月29日に第3回会談(会談内容は後述)が行われました。 3回にわたる会談の経過および結果は6月7日の日本心理学諸学会連合理事会で報告されました。

(開催日)
第1回:2009年2月15日(日)
第2回:2009年3月16日(月)
第3回:2009年4月29日(水祝)

(参加団体と参加者)
○臨床心理職国家資格推進連絡協議会(以下「臨床心理職側」):鶴光代(会長)、奥村茉莉子(事務局長)
○医療心理師国家資格制度推進協議会(以下「医療心理師側」):織田正美(会長)、宮脇稔(副会長)
○日本心理学諸学会連合(以下「日心連」):市川伸一(理事長)、野島一彦(副理事長、資格委員長)

第1回(2009年2月15日13:30〜16:30)会談内容:

(1)国家資格の早期実現について
○ 野島副理事長より、この会談は2008年12月23日の日心連の理事会の決議に基づくものであるとの説明が行われた。
○ 臨床心理職側の鶴会長、医療心理師側の織田会長から現状認識について発言が行われ、心理学界、医療界がまとまる案をつくることが必要であるとの確認が行われた。
○ 資格問題の大きな論点は、@資格の名称、A資格の性格、Bカリキュラムの3点であることが確認された。
○ 現在の2資格1法案の“微修正”で心理学界、医療界がまとまる案を模索することを確認した。
○ @資格の名称について、「臨床」と付いていることをめぐり、「臨床」ということで意味する内容について、出席者の受けとめ方にいろいろな解釈があることを確認した。
○ A資格の性格について、臨床心理士はよく「汎用」資格と言われるが、「汎用」の意味する内容について、出席者の受けとめ方が必ずしも一致していないことを確認した。
○ Bカリキュラムについては、基礎系の心理学、臨床系の心理学の両方がともに大事であるということについて議論された。

第2回(2009年3月16日12:00〜15:00)会談内容:

(2) 国家資格の早期実現について
○ 前回、医療心理師側から臨床心理職側の協議会の構成メンバーを教えてほしいと要望が出されていたことに対し、「現在,構成メンバーを確定する作業をしている途中であるが、今のところ約15団体が確定している」との説明があった。
○ 今後の動向について、臨床心理職側は3月28日に構成メンバーによる会合を予定していること、医療心理師側は4月16日に総会を予定していること、日心連は6月7日に理事会が予定されていることが紹介された。 そしてできれば6月7日の理事会に一定の会談の成果が報告・提案できればということが話し合われた。
○ 会談は国家資格の早期実現を図るために行っているということを改めて確認した。
○ 2資格1法案を起点として折り合いがつくことをめざして会談をしているので、第1ステップは、基本的に微修正という形の「マイナーチェンジ」の案を模索することが確認された。 ただ、それが行き詰まったら、第2ステップとして、大幅な修正という形の「フルモデルチェンジ」の案を模索せざるをえなくなるであろうとの見通しも話し合われた。



V 臨床心理職側(2009年3月28日)情報

構成メンバー16団体による会合で、資格についての4つの案、 @2資格1法案(現状で実現に努力)、 A2資格1法案(当面このまま日本心理学諸学会連合での公式な話し合いを待つ)、 B1資格1法案(学部卒と大学院修了の2種類の資格で汎用資格)、 C1資格1法案(大学院修了のみ一種類で汎用資格) ─について話し合われたが、各関係団体に持ち帰り議論して、その結果を5月10日に持ち寄ることとなった。 名称問題はその結論次第である。


W 医療心理師側総会(2009年4月16日)情報

医療心理師側の総会には19団体が参加した。 まずアンケートの結果が報告された。 アンケートは、「2資格1法案そのままを支持」と「2資格1法案修正を支持」の2案を合わせて、2資格1法案を支持する回答が多数であった。 しかし、「その後の学術会議の提言を受けて考えたい」、「2資格1法案が資格の近道と思って支持したがこのままでは進まないのではないか」、「多数決ではなく徹底的に話し合いたい」等さまざまな意見が出た。
医療団体からは特に、2資格ではなく1資格(2階建ての資格には反対)、医療領域では「医師の指示」とすること、「臨床」を名称に使わない ―などの強い要望が出されたが、名称独占資格については理解を示し、心理の当事者団体の方針と資格内容が1つにまとまれば、資格化の流れを積極的に支援する、と述べられた。
こうした経過を検討すると、「2資格1法案の微調整」で資格化を進めることにはかなりの困難が予想され、「1資格」の可能性を探る流れになった。 この場合1資格というのは、医療心理師法案ひとつにするということではなく、2資格をひとつにまとめるという方向であり、学術会議の提言も参考にすることを確認した。


X 第3回三団体会談(2009年4月29日)

(3) 国家資格の早期実現について
○ 臨床心理職側から、3月28日に開催の構成メンバーによる会合についての報告(上記V参照)が行われた。
○ 医療心理師側から、4月16日に開催の総会の報告(上記W参照)が行われた。
○ 日心連から、4月12日の常任理事会で、第2回の三団体の会談の報告をめぐり、昨年12月の理事会の決議はあくまでも2資格1法案の支持ということなので、「マイナーチェンジ」を模索することはいいとしても、「フルモデルチェンジ」に踏み込むべきでないとの意見が出されていることが紹介された。
○ その後、三団体の意見交換が行われ、2資格1法案を起点・ベースとしてこれまで種々議論を重ねてきたが、このままあるいは微修正でその実現を図ることは難しいという認識で一致した。 今後は2資格1法案を起点・ベースとして、それを止揚・統合する形の新しい方向性(1資格1法案)を模索せざるをえないのではという見通しが話し合われた。
○ 3回にわたる三団体の会談をとおして、「2資格1法案の実現は難しい」という認識が一致するという形で一区切りしたので、2資格1法案を模索する会談をこれ以上はしないことになった。 今後については、日心連6月7日の理事会での議論にしたがうことになるが、臨床心理職側、医療心理師側からは、今後も日心連が両団体の調整をしてほしいとの要望が出された。
○ 最後に国家資格の早期実現を図ることの必要性を改めて確認した。



Y 臨床心理士側の動き

2009年5月から6月にかけて、臨床心理職側の構成メンバーである各団体・学会の理事会・総会が開かれつつあり、「2資格1法案をベースに1資格1法案」の案について検討が進められていると伝えられている。


Z 全心協役員会の内容

2009年5月16日の役員会において、1資格1法案の流れの経過について宮脇会長より説明があり、全心協としての今後の方向性を検討し、方針を確認した。
○ 「2資格1法案」から「1資格」への変更についての確認
全心協は推進協のアンケートに対し、「2資格1法案」を堅持する方針を役員会で確認し、回答している。 これは、「2資格1法案」による国家資格創設が、ユーザーが保険診療によって心理職の支援を得ることができるようになるための、もっとも近道であるとの判断に基づく結論であった。 推進協総会において「2資格1法案」の微調整では法案提出が困難であるとの経緯を踏まえて、「1資格」に可能性があるならば、その方向に舵をきることはなんら問題ないとの結論に達した。


[ 2団体から日心連に要望書を提出

日心連常任理事会の野島資格委員長に対して、医療心理師国家資格制度推進協議会と臨床心理職国家資格推進連絡協議会の2つの協議会役員名での要望書を提出した。
要望書ではユーザーと家族の治療や支援の充実を図るために、あらたに「1資格1法案」を検討する2つの協議会への日心連の支援を要請している。
要望書における新たな国家資格法案骨子の要点は以下の内容。
○ 心理職としてひとつの資格(領域汎用性の資格)。
○ 資格名は、○○心理士、心理士(心理師)等を検討。
○ 学部と大学院が連動した教育システムとする。
○ 医療機関においては医師の指示を受ける資格とする。


\ 日心連理事会報告

日心連では、6月7日に理事会が開催され、「2資格1法案」に対する3団体の協議内容の報告に基づいて今後の方針が審議された。 また役員改選も行われた。
名称の変更、教育カリキュラム内容、受験資格等の課題を検討した結果、「2資格1法案」の微調整では収まらず、法案のフルモデルチェンジの必要性が示唆された。 また、上記[の内容の要望書も提出された。その後これらを踏まえて活発な議論が交わされた結果、以下の方針が確認された。
○ 医療心理師側と臨床心理士側、2団体の実行行動については容認し、3団体協議は継続する。
○ 日心連の資格委員会も活動を継続し、各学会からの要望は資格委員会を窓口とする。
また役員改選では、日心連の副理事長として織田正美氏(医療心理師国家資格推進協議会会長)が選任された。


] 全心協の課題

○ 資格創設を最優先課題とし、日心連、臨床心理職側との調整を重視しつつ、医療団体に十分配慮しながら、柔軟に、大胆に、しかも慎重に実現に向けてことを進めてゆく。
 (医療心理師国家資格制度推進協議会と臨床心理職国家資格推進連絡協議会は今後も協議を重ね、情報を共有する予定です)
○ 「2資格1法案」成立のために尽力いただいた議員連盟の多くの議員、特に鴨下前環境大臣の理解を得るための十分な説明と対応の必要性。
 (すでにある程度、議員連盟の議員には「1資格」の可能性について情報が伝わっています)


全心協が考える法案骨子案(たたき台)

◇名称:特に拘らないが、汎用資格とするならば「心理師」がよいのではないか。
◇業務領域:医療・保健といった保険制度と結びつく領域では医師の指示のもとで業務を行う。
◇教育:4年制大学での心理学専門教育を基本とし、その後現場にて一定期間研修(有給)を受けるか大学院教育を受けて受験。 1種、2種といった2階建ての資格とはしない。
◇カリキュラム:基礎心理学科目を尊重し、最低限必要な医学・福祉教育と多職種によるチームアプローチや集団・コミュニティに関する心理学教育を重視する。 また、実習・研修システムの充実を図る。
◇主務官庁:文科省と厚労省の共管でなく、厚労省を主管とする。


最後に

今後の展開はとても重要です。 日本精神科病院協会や日本精神神経科診療所協会との協議や財団法人日本臨床心理士資格認定協会の事情あるいは、日本心理学諸学会連合、日本臨床心理士会および日本心理臨床学会等における内部のまとまりなどにより、国家資格実現の可能性は左右されます。 衆議院選挙を控えどの政党が政権与党になるかも大きな影響を与えるでしょう。
そうした状況を視野に入れながらも、それぞれの団体、機関、各位が、心理職の国家資格を必要とするユーザーやその家族を念頭に、今後の様々な難局に立ち向かい、資格創設のために力を合わせて進んでゆくことを望んでやみません。



<全心協事務局>

〒 130-0013 東京都墨田区錦糸2-6-10
錦糸町カウンセリングルーム

E-mail:psycho@onyx.dti.ne.jp

Tel. & FAX. : 03-3623-1838
(留守番電話になっています)