2006/03/30更新

「全心協ニュース No.51」より


平成18年3月

全心協会長  宮脇 稔

2006年を迎え全心協の会員各位には、医療心理師の国家資格法案に関する情報をお示しすることなく半年余りも経過したことをまず始めにお詫びします。

ニュースレターNo.50号において、「医療心理師」法案要綱が出来上がり、医療心理師国家資格制度推進協議会主催の決起集会が盛大に開催されたことをお伝えし、7月5日には「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子」が発表され、いよいよ国会に上程されるかという間際になって、推進協議会のメンバー団体である医師団体から猛烈な反対声明が出されたことで上程は見送りとなりました。ここで少し流れを振り返って報告したいと思います。

医療心理師の国家資格創設の流れは、

2005年1月、23団体(2006年1月現在25団体)で、医療心理師国家資格制度推進協議会を設立し資格成立にむけた議員立法での具体的取り組みを開始しました。

2月、厚生労働関係中心に73名の超党派議員連盟結成。

3月末、議員連盟による医療心理師法案要綱の承認。

4月、国家資格創設のための総決起集会の開催。

5月、医療心理師法案が完成。

あとは第162通常国会に上程されて衆参両議院の審議を待つばかりとなりました。
しかし、医療心理師に対抗して、日本臨床心理士会(以下臨床心理士会)を中心に、急遽、横断的資格を求める要望が出され、4月に文部科学省関係中心の議員連盟を結成しました。このことで2つの心理職の資格を1本化できないかと調整が始まりました。その結果5月以降12回におよぶ2つの議員連盟の代表者間での法案の一本化に関する調整が重ねられ、7月5日、ひとつの傘の下に2資格1法案という異例の「臨床心理士及び医療心理師法案要綱骨子」がまとまり、両議員連盟総会の場で承認されました。

法案要綱骨子における2つの資格は以下のような特徴を備えていました。

@医療心理師資格
医療心理師資格は厚労省資格として、医師の指示の下で業務を行う医療領域に限定した名称独占資格で、4年制大学で心理学に関する科目を修めて卒業した者に受験資格を与える。

A臨床心理士資格
臨床心理士資格は、文科省と厚労省の共管資格として、医療提供施設で傷病者に対してその業務を行うに当たっては、医師の指示を受けるが、それ以外の領域では連携。基本的には横断的業務領域の名称独占資格とされ、大学で心理学科目を、かつ、大学院において臨床心理学科目を修めて、大学院修士課程以上を修了した者に受験資格を与える。

医師団体からの法案要綱骨子への反対理由はそれぞれの医師団体から声明が出されており、明らかにされていますが、その後の医師団体との話し合いの経過からすると、最も大きな理由は2点にしぼられます。

1点目は2資格1法案として臨床心理士資格が医療心理師と同時に提案されたことです。医師団体は医療心理師資格の推進団体としてその法案への了解はありましたが、臨床心理士資格は医療心理師資格を追う形で大急ぎで体裁を整えたもので不明な点が多く、とても了解することができないとのことでした。具体的には、臨床心理士も医療提供施設において傷病者に対しては医師の指示を受けることになっているものの、その範囲が不明確です。つまり訪問看護のように医療の場を離れた場合にも医師の指示はかかってきますが、そうなるとその範囲が厳密に規定されず、スクールカウンセラーや開業心理との関係にグレーゾーンを生じることになりかねません。また、国家資格と試験機関や現行の指定大学院制度や認定臨床心理士の名称との関係も曖昧さを残したままであり、対象者も臨床心理士の場合の心理的な問題を有する者と、医療心理師の傷病者の区別も明確になっていません。こうした曖昧さを残した法案では、いくら政省令において規定するとしても賛成できないとの主張であったようです。

2点目は7月5日に公表された経緯が不可解であるとの印象を与えた点です。法案は議員立法による上程を目指しており、最終的には議員連盟にその内容を委ね、2つの議連が詰めを行ってようやく2資格1法案の骨子が生まれました。しかし、骨子が示される前に推進協議会の役員や臨床心理士会・全心協が知った上で、医師団体を抜きにして何らかの合意があったのではないかとの疑問を与えたようです。現実にはそうした事実はなく、最終段階の法案の中身の検討にも参加していません。

「臨床心理士及び医療心理師法案要項骨子」に関して7月5日以前に全心協が内部や他団体と話し合ったり臨床心理士会と接触したことはありません。5月のヒアリングの場で臨床心理士が4月時点の方針を変更して、医師の指示を受けることを認める発言を始めていることを知り、それに対してあくまで医療とそれ以外の場での棲み分けを主張し、6月14日付けで国会議員各位に推進協議会名で見解を表明しています。具体的には「医療心理師は医師の指示の下」、「臨床心理士は医師との連携」とそれぞれの要綱案どおりの法案として法案作りをしていただきたいと主張しています。

しかしながら、全心協は1993年の発足以来13年にわたる悲願の達成に心が奪われていて、法案全体に対する冷静な判断が十分でなかったことは事実です。全心協は2資格が医療とその他の領域として業務領域の棲み分けを主張しながら、公開された法案がそうならなかったにもかかわらず、今を逃しては国家資格化の実現は今後また10年先のことになってしまうとの焦りが先にたちました。7月8日の推進協議会においても、法案への疑問点や不明な点があるものの、時機を失することを恐れるあまりに法案成立を優先させました。このことへの医師団体の批判を真摯に受け止める必要があると考えます。

結果はご存知のように資格の上程見送りとなりました。その後8月8日に衆議院は解散となり、今日に至っています。衆議院選挙では議員連盟の多くの国会議員に異動がありましたが、「臨床心理士及び医療心理師」法案は廃案にはなっていません。2つの議連の国会議員の先生方によって今も国家資格実現のために検討されています。

全心協は悲願の資格化が、最終段階で暗礁に乗り上げたことから、法案上程断念という事態に対処するための方向性の見定めとエネルギーの充電にことのほか時間を要してしまいました。それでも医師団体や臨床心理士会とも話し合いを始めています。養成カリキュラムについても多くの学会や職能団体の協力を得ながら検討を継続しています。そして2006年に入りようやく今後の方針が確認され、明確になってきました。先の法案は議員連名の先生方のご努力の結晶ですが、ことを急いだために上述のように検討し整理すべき不明確な点が含まれています。医療心理師の案においても十分とはいえません。少し時間をかけてでも法案成立に耐えうる内容のものに仕上げるべきと考えています。そのためには推進協議会を再開し、多くの団体の先生方の意見も聞きながら粘り強い検討を進めてゆかねばならないと考えています。

2002年12月には臨時国会会期末に議員連盟の立ち上げを図り、直前に断念しました。その経験を生かし2005年1月には推進協議会を立ち上げ、2月には73名の国会議員によって議員連盟を立ち上げていただくことができました。3月には医療心理師法案要綱も出来上がり、7月にはまさに法案上程直前までたどり着きました。今度は近い将来に、医療心理師法案を現実のものとして成立させ、3度目の正直とするべく堅実な努力を重ねてゆく所存です。

幸いなことに、法案に反対された医師団体からも、医療心理師の国家資格成立に向けてこれまで以上のご支援をいただけるとのお言葉を頂いています。日本精神科病院協会ではすでにそのための検討委員会を会長自ら組織され、既に2回会合が開かれました。日本精神神経科診療所協会からも力強い支援の言葉を頂きました。心理学関係学会では医療心理師養成の研究会や検討班も幾つか立ち上がり、活動を開始しています。こうした流れを生かしながら全心協は今後の経過について今まで以上に情報公開し、逐次会員各位にご報告しながら、会員の声を反映させた法案作りにまい進してゆくことをお約束したいと思います。


追伸:巻頭言の最後に残念で悲しいお知らせをすることになりました。日精協理事であり推進協議会の顧問である三村孝一先生が2月19日、72歳の生涯を終えられました。先生は医療心理職の国家資格創設に向けて陰になり日向になりご尽力くださいました。
全心協創設当時より10年余りに亘るご支援に対して心よりのお礼とご冥福をお祈り申し上げます。


<全心協事務局>

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