2009/08/27更新

「第6回精神保健フォーラム」宣言


2009年7月12日

私たちは、近年の精神保健・医療・福祉、さらには広く社会保障全般をとりまく深刻な状況に対して大きな危機感を抱きながら「第6回精神保健フォーラム」に集いました。

このフォーラムを主催する精神保健従事者団体懇談会(精従懇)は、精神保健法成立の前年(1986年)に創立しました。 それから20年以上が経過する間に、精神保健・医療・福祉に関する制度と環境は少なからず変化しました。 しかし今なお満足すべき状況からは遠く、精神障害のある人に対する差別や偏見、そして生活の実態は相変わらず厳しいものがあります。

特にここ数年、精神保健・医療・福祉の枠組みをめぐる大きな変化が相次ぎ、当事者とその家族、そして従事者は対応に追われました。 しかもこれらの制度の変化が、精神障害のある人にとってよりよい生活をもたらすものだったのかどうか、現状を見る限り辛口の評価をせざるを得ません。

2006年にスタートした障害者自立支援法体制は、障害者の種別を問わず福祉サービスを一元化した点や、福祉サービスの実施主体を住民に身近な市町村に移した点で画期的でした。 一方で、精神障害領域の特殊性と後進性が、いわば一元化の副作用として際立ってしまうなど多くの課題を残し、今後の法改正に当たってきめ細かい目配りが必要です。 また介護保険との将来的統合を見越した当初の構想が事実上挫折したことによって、「税か保険か」「応益負担か応能負担か」という財源論を含む障害者福祉の基本的考え方自体が再検討を迫られています。

根強い批判のなかで2005年に施行された心神喪失者等医療観察法は、今日までの運用で様々な問題が表面化しつつあります。 法の見直し時期を控え、この制度が精神障害者と地域精神保健医療、そして市民社会に何をもたらしたのか、立法の理念から問い直す議論が求められています。

一方国際社会では、2008年5月に「障害のある人の権利に関する条約」が発効し、日本も批准の準備段階に入りました。 批准にあたって、関連する国内法の見直しや改正を国がどこまで掘り下げて行うかが注目されています。 私たちは、本格的な議論を避けて拙速に批准するのではなく、これを障害者に関する国内制度改革のための好機と位置づけ、本腰を据えて取り組むべきであると考えます。

特に精神保健福祉法については、2005年改正では重要な懸案をほとんど先送りした経緯があります。 次期改正こそ正念場と捉えて、論点整理を急がなければなりません。

こうしたことに加えて私たちは、近年世界規模で広がる経済危機が、社会保障全般に暗い影を落としていることを深く思わずにはいられません。 今日、地方自治体の財政はいずこも逼迫し、いたるところで障害者福祉施策へのしわ寄せが問題となっています。 そして社会全体の経済的疲弊は、精神障害者はもとより社会的に弱い立場の人に最も過酷な状況を強い、そうしたなかで年間3万人を超える人が自ら命を絶っています。 私たち精神保健・医療・福祉関係者は「自殺問題」と正面から向き合い、私たちがなすべきこと、できること、そしてその限界などを真剣に論議し、社会に向けて発信しなければなりません。

私たちは以上のような厳しい状況を変革する道を探るためにこのフォーラムに集いました。 現状は確かに楽観を許さないものがあります。 それでも私たちは決して希望を失ってはいけません。 このような時だからこそ、精神障害者とその家族、そして一般市民を含む多くの精神保健・医療・福祉関係者が、職種、職域、専門性を超えた連携の絆を強めることで、メンタルヘルスの領域全体を覆う危機を好機に変える知恵と力が生み出されるものと信じています。 私たちは、危機の時代にあっても精神障害のある人を含むすべての市民が人間らしく暮らせる社会の実現を目指して、日々の営為を検証し、改革の歩みを続けることをここに宣言します。

第6回精神保健フォーラム
精神保健従事者団体懇談会


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