木下貴雄

採用内定者と就業規則

  • 採用を内定した者がいて、入社は1ヶ月ほど先になるのですが、それまでの間に研修を受講してもらいたいと考えています。就業規則には、従業員に研修の受講を命じることがあると規定しています。採用内定者にも就業規則を適用できるのでしょうか?
  • 就業規則は、入社日以降に適用するものと考えておいた方が無難です。なお、会社が一方的に研修の受講を命じるのではなく、会社から内定者に必要性や有用性を説明して、本人が同意すれば問題ありません。

採用内定とは

会社が採用試験を行って、本人に採用決定の通知をして、本人が誓約書を提出したり、入社の意思表示をした時点で、労働契約が成立します。

新規学卒者を採用する場合は、4月1日を入社日とする会社が多いです。また、中途入社をする場合も、引き継ぎ等の都合で入社日まで期間が空くことがあります。

採用内定とは、労働契約が成立しているけれども、入社日が先で実際にはまだ勤務していない状態のことを言います。

労働基準法の適用

採用内定者に就業規則を適用できるかどうかを考える前に、採用内定者に労働基準法は適用されるのでしょうか。

労働基準法では、労働基準法が適用される「労働者」を、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。

内定期間中は会社に出勤しません(使用されません)し、賃金が支払われることもありません。したがって、採用内定者は労働者に該当しないため、労働基準法は適用されないと考えられます。

しかし、厚生労働省では、「採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しには、労働基準法第20条、第22条等の規定が適用されます」と、リーフレット等で明示しています。

労働基準法第20条は「解雇の予告」、第22条は「退職時等の証明」について定めた規定で、会社がこれらの規定に違反すると、労働基準監督署から是正勧告や指導を受けるかもしれません。

就業規則の適用

採用内定者に対する就業規則の適用について争われた裁判例がなく、学説でも内定日(労働契約が成立した日)から適用できるという見解と入社日(勤務を開始した日)から適用できるという見解の2つに分かれています。

労働契約法の第7条では、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と規定されています。

要約すると、労働契約を締結すれば、就業規則が適用されると解釈できます。

しかし、内定期間中は、就業規則の労働時間や休暇、賃金など、実際の勤務を前提とする部分が適用されないことは、議論の余地がありません。

また、内定者は通常、学生であったり、前職の従業員として生活していることから、内定期間中に、会社が就業規則を根拠に業務命令をして、内定者に従うよう求めることは不合理で現実的ではありません。

仮に内定日から業務命令ができるとしても、学生は大事な授業があったり、前職の従業員は出張を予定していたりすることは十分考えられます。そのような状況で無理やり業務命令に従わせると、会社に対して不信感を抱き、内定の辞退に繋がる恐れがあります。

会社としては、内定期間中は就業規則を適用すること(業務を命じること)はできないと考えておくのが無難です。

研修の受講やレポートの提出など、内定者に何かさせたいときは、会社が一方的に命じるのではなく、本人の状況を考慮した上で、自ら進んで行うよう必要性や有用性を明らかにして、話し合って決めるべきです。

内定の取り消し

内定期間中は就業規則を適用できないとしても、内定者と会社の間で労働契約は成立しています。そのため、内定を取り消す行為は、労働契約の解消、つまり、解雇に当たります。

労働契約法の第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。

内定を取り消す場合も、この規定が適用されます。就業規則が適用されなくても、正当な理由があれば、内定を取り消すこと(解雇すること)ができます。

就業規則の適用について