木下貴雄

電電公社 帯広局事件 事件の概要

昭和50年代にあったトラブルです。

電話交換の作業に従事する従業員の中に、長期にわたって頸肩腕症候群に罹患している者が多数存在していました。

就業規則には、心身の故障により療養、勤務軽減等の措置を受けた従業員は、健康管理従事者の指示に従って、自己の健康回復に努めなければならないことが規定されていました。

また、公社は労働組合と労働協約を締結して、頸肩腕症候群を発症して3年が経過しても軽快しない長期罹患者に対して、札幌逓信病院において精密検診を実施することとしました。

公社は、頸肩腕症候群を発症したために、本来の職務である電話交換の作業に従事しないで、軽易な業務に就いていた従業員に対して、この精密検診を受診するよう命じました。

しかし、従業員は、札幌逓信病院は信頼できないとして、この業務命令を拒否しました。

この件に関して、労働組合と公社で団体交渉が行われたのですが、この従業員が交渉の場に押し掛けて、その間、約10分間にわたって無断で職場を離脱しました。

公社は、業務命令(受診命令)の拒否、及び、職場離脱の行為が懲戒事由に該当するとして、この従業員を戒告処分としました。

そこで、従業員は、戒告処分の無効の確認を求めて提訴しました。

電電公社 帯広局事件 判決の概要(最高裁 昭和61年3月13日判決)

会社が従業員に対して業務命令ができる根拠は、従業員がその労働力の処分を会社に委ねることを約束した労働契約にある。

従業員は、会社に対して一定の範囲で、労働力の処分を許諾して労働契約を締結するのであるから、その一定の範囲で、労働力の処分に関する会社の業務命令に従う義務がある。

したがって、会社が業務命令として指示や命令のできる事項であるかどうかは、従業員が労働契約によって、その処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって決まる。

ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、社会的規範としての性質だけではなく、その内容が合理的なものである場合は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質がある。

従業員は、就業規則の存在及び内容を知っているかどうかにかかわらず、また、就業規則の内容に関して個別に同意を与えたかどうかにかかわらず、その適用を受けることになる。

一定の事項について、会社の業務命令に従うことを就業規則で定めていて、その就業規則の内容が合理的なものである場合は、具体的な労働契約の内容になっていると言える。

そして、本件就業規則及び健康管理規程には、従業員は常に健康の保持増進に努める義務があること、従業員は健康管理上必要な事項に関する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があること、及び、従業員は健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があること、が定められている。

これらの就業規則及び健康管理規程の内容は、いずれも合理的なもので、従業員の健康管理上の義務は、公社と従業員の労働契約の内容になっていると言える。

以上より、頚肩腕症候群の精密検診の受診を命じた業務命令は有効で、これを拒否した従業員の行為は就業規則の懲戒事由に当たる。また、職場離脱についても懲戒事由に当たることはいうまでもない。

また、公社が従業員に対して行った本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用した違法なものとは認められない。

したがって、本件戒告処分は有効である。

電電公社 帯広局事件 解説

就業規則に、一定の内容について、会社の業務命令に従うことを定めていて、その就業規則の内容が合理的なものである場合は、その内容が労働契約の内容になることが示されました。

秋北バス事件の最高裁判決の考え方を受け継いだ内容です。

そして、この裁判では、受診命令を定めた就業規則の内容は合理的で、労働契約の内容になっているものとして、従業員は精密検診の受診命令に従う義務があると判断しました。

就業規則に関する代表的な裁判例