この小説はフィクションです。

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転載禁止、著作権保持
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produced by 藍 美麗 of 301project


第二章

 

 

 

白々と夜が明け始めていた。

 

結局、久遠の事務所に昨日の晩から居続けてしまったんだ。そして今僕らは、四人で珈琲を飲んでいる。あれから、まだ誰も口を開こうとはしていない。

皆無言で珈琲を飲んでいるんだ。

 

僕は、マルボロライトのメンソールに火を付け、思いきり深く吸い込み、そして煙をはきだした。そして又珈琲を一口。

 

「あたしにも一本くれない?」

じゅんが今日初めての第一声を放った。

僕は、マルボロを一本指し出し、じゅんが口にしたところで火を付ける。じゅんも同じように深く吸い込んで、煙をはきだした。まるでため息のように。

 

「一体、何がどうなってるんだ?」

久遠が静寂を破るのを恐れたかのように、誰にともなく呟いた。

 

 

そう、昨日僕らは”Club Goddess”から久遠のこの事務所に来て、@LOVEを見に行ったのだった。サイトが表示されないのではないかという不安もあったが、無事サイトが表示されたので、不安は杞憂に終わったのだが。

しかし別の問題があったんだ。

誰もサイトの内容を覚えていなかった、と言う問題が。

四人全員が一緒にそろって見ているのにだ。

 

全員夢中になって、サイトに見入っている間に、かなりの時間が過ぎ去っていたというのに。

 

 

沈黙を破って、じゅんが言った。

「あたしは今日初めて見たんだけど、なんだか無我夢中って感じだったわね。見ている最中は、ああそうなの、そうだったんだって、内容も把握して納得して感動して見ていたんだけど、なんだか今のあたしの疑問に答えてくれているみたいに、知りたいこと、悩んでいることについていたって感じね。その時は不思議に思わなかったんだけど、そういえば今こうやって考えてみると、あたしが関係ないと思うような、無駄って言ったら変だけど、いらないところはなかったわ。これって変よね。誰かがあたしの疑問に答えてサイトを作ってくれてるみたいだもの、そんなことあり得ないのにね。」

「俺もそう感じたんだ。なんていうのか、俺と同じことを考え、俺と同じことを悩んでいる人が他にもいるんだって、興奮しちゃったんだ。」

「私は毎回見るたびに内容がまるっきり変わっているのが印象的だわ。前回とも前前回ともちがう、まるでどんどん先へ進んでいく学校みたいな感じがするわ。でも、きびしくはなく、優しさにあふれた、ね。」

「僕は今回で二回目なんだけど、やはり夢中になってしまったね。時間のことなんか気にならなくなったぐらい集中していたよ。そういえば、周りにいた君たちのことも、目に入らなかったなあ。ごめんよ、

どんどん先へスクロールしてしまったね、皆ちゃんと読めているかどうかなんて考えてる暇もなかったんだ。」

久遠が驚いたような顔をして言った。

「ちょっと待てよ。Macのマウスは俺が操作していたんだぜ。キーボードの前に居たのも俺だ。それなのになんでおまえがスクロールなんてできるんだ?おまえは、だいたい一番後ろにいたんじゃなかったか?俺がMacの前、美樹が右隣、じゅんが左、俺の後ろに藍、だっただろう。おまえの位置からは、キーボードはおろかマウスになんて触れやしないよ。」

「あれ?そうだった?そういえばそうだよなあ。でもちゃんとマウス操作したよ。久遠のMacは3ボタンマウスに変えてあるだろう。スクロールダウンとスクロールアップをボタンだけで操作できるようにしてあるだろう?さっきもそうやって操作したから、ちゃんと憶えてるよ。ウチのMacとは違っているから慣れるまでに苦労したよ。変なボタン押したりしてさ。」

「おまえ、俺のMac今まで触ったこと無かったじゃないか。なんでそんなこと知ってるんだ?」

「さっき、@LOVE見ていたときに触ったのが初めてだよ?」

「あたしもマウス操作したわよ。あたしのはウインドウズマシンだけど、久遠のMacは操作しやすいなあって思っていたの。」

「私も。ずっとマウス握りっぱなしだったわ。手が汗ばんで拭くときに離したぐらいよ。」

 

「なんなんだ、これは。一体何が起こってるんだ?」

 

又全員黙り込んでしまった。僕には何がなんだかわからない、一体何が起こっているんだろう。不思議と不安は感じなかった。というよりなんだかわくわくするような楽しさがあった。こんな気分になったのは久しぶりだ。なんだか子供の頃にかえって、秘密基地を探しに行くときのような、そんな感じだった。これからどうなるんだろうという不安感ではなく、これから何が始まるんだろうという期待感が皆からも感じられた。しかし皆、今までの経験から過剰な期待は裏切られると思っているのかもしれない。そういうアンビバレンツな感情の対立が沈黙を生んでいた。

 

「ようし。考えていても始まらない。もう一度@LOVEにアクセスしてみよう。今度はそういうことに注意をはらってな。」

久遠が言った。皆それにうなずいた。それしか方法はないだろう、いろんな疑問に答えるには。

 

 

しかし、今度はサイトは表示されなかった。

 

 

「やられたな。」

久遠がそういいながら、笑った。

「やられたって?どういうこと?」

「ああ、一体何が起こってるのかはわからんが、何者かにうまく乗せられているような感じって事だよ。うまく興味をつなぎ止められているってことさ。いいか、今朝の7時ごろだろう、しかも日曜日だ。こんな時間にネットがパンクするはずはないよ。むしろ空いていて当然の時間だ。残る可能性は、相手方のサーバダウンだけだ。それもあんまりあり得そうな話じゃないがね。見せる相手を選んでるってのはあながち冗談ではないかもしれないなあ。おもしろくなってきやがったな。」

久遠はそういいながらMacを終了させた。

「皆眠くはないか?」

久遠の問いに全員が首を振って答えた。

「俺もだ、カンテツだったのにな。眠くないどころか元気一杯なんだ。なんだか高校生に戻ったような感じだ。しかも頭もさえてる、ま、それはいつものことだが。」

久遠の一言に皆爆笑した。

笑いが収まってから、しばらくしてじゅんが言った。

「ねえ、久遠、前から気になってたんだけど、あのチカチカ光ってる黒い箱は何なの?おんなじ様なものを昨日Club Goddessでも見かけたんだけど。」

「ああ、あれか。」

久遠はそういいながらその箱を持ってきた。黒いビデオテープぐらいの大きさで、表面には赤と緑のアクセスランプのようなものが付いている。いまは、緑のランプが点滅していた。

「どうやって説明したらいいかなあ。簡単に言えば、結界を張る装置ってとこかな。」

「結界って?あの、うんにゃらむんにゃら唱えて、えいってやると張れるバリヤーみたいなもん?」

「そりゃ、漫画の見過ぎだな。まあ、今でもそうやってる人はいるんだろうが、バリヤーを張るわけじゃないんだ、この機械ではね。そうだなあ、雰囲気調整器とでも言えばいいのかなあ。波動ってわかるか?」

「波動って、言葉は聞いたことあるけど、なんかあやしそう。」

じゅんが笑いながら言った。

たしかに、この頃よく”波動”という言葉を聞くが、何だか怪しげだったので、調べもしないでほっておいたのだった。

「うん、今の大多数の人がそういうだろうね。僕もまだそう思ってるんだけどね。」

久遠も笑った。

「僕のクライアントの一人がそういうのに興味が深くて、いろいろ研究してるんだけどね。波動って言うのは、空間の一点に起こった状態変化が次々に有限の速さで周囲に伝わる現象の事だよ。水の波,弾性波,音,光,電磁波などがその例で,電子その他物質粒子も波動の性格を示すんだ。ド・ブロイは,光が粒子性をも示すように物質粒子にも一種の波が伴い,それによって粒子の運動が規定されると考えた。この波を物質波またはド・ブロイ波というんだよ。今使われている怪しげな”波動”って言うのはそれらをひっくるめていってるらしいんだが。」

「何だか難しくてよくわかんないわ。もっと簡単に説明してよ、久遠。」

「つまりこの世のものには全て、ある種の振動があるって事だよ。物質はもとより目に見えないものにもね。電波とか、電気とかね。で、どうやら意識とか、”気”とかいったこともそうらしいんだ。ここまで来ると怪しいかな?」

「うん、とっても怪しい。」

「まあ、それを前提としないと話が続かないんで、ちょっと我慢して聞いてくれよ。

例えば、”気が重い”とかって言う状態は実際に”波動”が落ちた状態らしいんだ。”気が軽くなった”は、その逆で”波動”が上がったというか、振幅が細かくなったということだね。同じようにに”病気”という状態も、”健康”という状態よりも”波動”が荒いんだそうだ。つまり振幅が大きいものは”波動”が荒くて重く、振幅の少ないものは”波動”が繊細で軽いということらしい。

”動揺した”って言うだろう。心の動きの振幅が大きくなった状態だね。反対に瞑想などをすると心の動きの振幅が小さくなって、落ち着きゆったりする。」

「で、その波動が、どう結界と関係してくるの?」

「つまりさ、波動が悪くなると、いらいらしたり、重く沈んだ状態になるって事だろう?誤解を承知で言えば、そういう状態のひどくなったのが、悪霊とかたたりとか言うもんなんじゃないのかなあ。

だから波動をあげておけば、そういうことは起こらないんじゃないかという、これはある種の実験なんだよ。

俺は、占いをここでやってるだろう。大体占いに来る人ってのは、悩んでいて、気が重くなってるじゃないか。いわゆる波動が良くない状態さ。なかには何か憑いてるんじゃないの、って言うくらいどんよりした人もいるんだ。そういうひとがくると、引きずられて自分の状態も落ちていくんだ。それが辛くてね、で、この波動調整器を使いだしてからそれがなくなったんだよ。論より証拠さ。

この波動調整器によって、この部屋の波動は、ある一定のレベルから落ちないようになっているんだ。今は、緑のランプがついているだろう?点滅しているときってのは波動が調整の必要がないときで、点灯しているときは調整中。これが赤いランプになると、波動が落ちすぎてて、この機械のパワーでは修正できないっていうことらしい。まだそんなことはないがね。」

「つまり狐憑きとかって言うのは、波動が落ちた状態のことを言うって事?」

「だいたいそうなんだが、そればっかりじゃないらしい。類は友を呼ぶって言うだろう?自分の波動の状態が、変なものを引き寄せるって事もあるんだ。

悪霊とか呼ばれてるものって、空間中に存在するエアポケットみたいに、波動が落ちてるところなんじゃないかなあ。それが、同じように波動の落ちてる人にくっついてさらに状態を悪化させるんじゃないか?地縛霊ってのは、その場所自体の波動の低下したもの。そう考えるとわかりやすいだろ?まあ、もともとそれに意識がくっついているものもあるんだけどね、それは置いといて。基本的な考え方はそういうこと。

だから結界。

波動が良くない人がこの部屋に入ると、波動が上がって楽になる。あまりに低すぎる場合は抵抗感があるらしいがね。それを乗り越えるかどうかは、本人次第。

波動が良くなくて、ついでに変なもんがくっついてる場合、本人はその気があれば部屋に入れるが、実体の無い波動だけの存在の場合、この部屋には入れない。入るには、自身の波動を変えねばならないからね、入れた途端に今までの物とは違ってしまう。

そうだ、悪霊なんかの意識があるものの場合、今まで憑いていた人が波動が上がってしまうともう近寄れなくなるらしいんだ。だから、この部屋から出ていくときにはもう取り憑けなくなっている。またなんかで波動が落ちないかぎりはね。一石二鳥だね。」

「なんだかよくわかんないや。」

「俺だって、まだよくわかんないよ。でも、効果があるんだから、問題はない。

じゅんが見たって言うClub Goddessの装置もこれと同じもんだよ。Club Goddessのオーナーも俺のクライアントでね。普通Clubって、だんだんと雰囲気が悪くなっていくじゃないか、荒れてきたりして。それをどうにか防止したいって言うもんだから、これ使ってみたらっていったんだ。効果実感できるだろ?まあ、それだけの所為じゃないだろうがね。従業員教育もしっかりしてるしね、あそこは。」

「ああ、良かったよ、あの店は気に入った。雰囲気もいいしね。」

「私ももう何回も行ってるんだけど、雰囲気いいわよね。いつ言っても当たり外れが無いから、他の店に行く気がしなくなっちゃう。今まで良かったのに突然がらが悪くなっちゃうのって、よくあるじゃない。それが無いから安心していけるのよね、Club Goddessは。」

「あたしも、まだ二回しか行ったことないけど、あそこは好きだわ。それで、そのぴかぴかが気になったのよ。」

「そうか、じゅんは鋭いからなあ。気づかれてたってわけか。」

と、久遠は笑った。

「ひどいわねえ。まるで私が鈍いみたいに聞こえるじゃない、その言い方。」

「いや、普通は気づかないよ。ああ、そうか、じゅんは気功とかのエネルギーワークをやっているんだったね、それで敏感なのかもしれないなあ。”気”の変化に敏感なんだ。」

僕は少し気になることが有ったので久遠に聞いた。

「さっきの話に戻して悪いんだけど、憑き物落としとかあるじゃない、宗教とかでもさ。エクソシストなんかもそうなんでしょ?拝み屋とかさ。ああ言うのはどうなるんだろう?」

 

例えば、きつねが憑いたとか悪い霊がついたとかいって憑き物落としをするなんて場面が、よくTVの特集なんかであるが、人にお金を払って落としてもらっても、すぐに又別の変なものが取り憑いてしまう。

何かが憑いたのなら、その原因は自分にあり、その原因は自分の考え方及び行動にしかないのだから。そこを勘違いして、原因を他に求めるから怪しげな新興宗教がはびこるのだと久遠は言う。

その、きつねやら悪い霊やらが本当に居るのかどうか僕にはよくわからない、何しろ見えないのだから。しかし万が一そういうものが居たとして、人に取り憑いたとしたなら、それを引き寄せた原因は当の本人にあるのではないだろうか?類は友を呼ぶのことわざどうり。

 

久遠はいう、

「行動による因果は、自らの行動によってしか解消されない」

と。

 

久遠によると、”拝み屋”というのはそういう不幸を種にゆするんだそうだ。

たとえば、前世でこんな悪行をしたから今因果応報で不幸になっている、だからその前世の業を解消しさえすれば不幸はなくなる。それには、この壷を買って祭ることだ、といって何百万という法外なお金で壷を買わせる。

壷でなくても何でもいいのだが、ようはそうやって、不幸を種におどしてお金を巻き上げる輩を”拝み屋”というんだそうだ。良心的な”拝み屋”も居ることはいるが数はずっと少ないらしい。

 

「だからさっきも言ったように、本人の波動が変わらなければ、同じことの繰り返しさ。憑き物を落としても、また新たに同じようなものが憑いてくる。だから拝み屋は同じ客から何回も何回もお金を引き出せるのさ。本人に変わる気が無ければ同じことの繰り返しだからね。」

 

 

なるほどそういうことかと思った。

自分が落ち込んでいるときに、明るく笑っている人のそばにいるのは、いたたまれない気分にさせる。その逆に、暗いことばっかりいってる人のそばには、明るい人は寄りつかない。明るくなりたいならば、自分から明るくならないと、周りの人が明るくしてくれるわけじゃないからなあ。僕は離婚して、暗くなって落ち込んで、その事を体験したばっかりだったから、よくわかった。

 

 

「何だか腹が減ってきたな。皆、飯でも食いに行かないか?」

久遠の表情がほんとにひもじそうだったのでおかしかった。

「なんだよ。笑うなよ。昨日の晩からもう12時間以上も何も食ってないんだぜ。腹も減るさ。

そうだ、皆で”エル・ヴィエント”にいかないか?まだしまってたら、マスターをたたき起こして何かうまいもんを作ってもらおう。そうだそうだ、そうしよう。」

といいながら久遠は、そそくさと出かける用意をしはじめた。

 

マンションの部屋を出て、ガレージまで降りていく。

 

「でもさ、エル・ヴィエントにはその装置付いていないけれども、雰囲気いいよね。」

「ああ、あそこには、あのマスターが居るからな。あのマスターは侮れないよ。近くによるだけでなんか、元気になるって感じだものな。じゅんは、そんな感じしないかい?」

「するする、すごいする。あのマスターただもんじゃないわよ。」

「じゃあ、あのマスターがClub Goddessにいればどうなる?」

「全員にマスターの目が届けば、あるいはな。だが、Club Goddessには1000人ははいるキャパがある。とてもそれだけの人数を面倒見切れるとは思えないな、いくらあのマスターでもね。」

 

そういいながら、久遠は、BMWに乗り込んだ。Alpinaのロゴが入ってる。

「さあ乗った乗った。飯に向かって全速力だ。」

 

久遠のBMWは、エル・ヴィエントに向かって僕らを乗せて加速した。

 

「なんで、Goddessなの?」

「えっ?ああ、あのClubね。オーナーから名前を付けて欲しいって言われたときに、カードからふっと浮かんだイメージが女神だったんだ。いままでは、荒々しい男神の世界だったが、これからは、優しく穏やかな女神の時代だってイメージがね。それで、ああ付けた。それと、”心のこもった”とか、”心遣いの細やかな”という意味もこめてClub Goddessなんだ。

これからは、表面だけの優劣、勝ち負けは通用しなくなる。”心”が、キーワードになると思うよ。心のこもらないものはだめになっていく、力だけではもう通用しない、そんな時代にふさわしい名前だろ?」

「場所がわかりにくくないか?あの位置では。」

「いや、それがさ、あそこって風水でいう龍脈の真上なんだよ。だから宣伝もしないし、雑誌の取材を受けなくても人はどんどん集まるんだ。それも心を持った人がね。」

「久遠って風水も観れるの?」

「ああ、ちょっとだけだけどね。まだ門前の小僧って感じだ。その風水は、オーナーが香港から風水師を呼んで観てもらったらしいよ。まあ、なんにせよ、そういうのには凝る人だからねえ、あのオーナーは。だから波動調整器なんて言っても拒絶反応はしなかったし、実際使ってみて効果があるとわかると、自分の他の店にも使いたいって言うし。波動調整器を作ったクライアントも、注文が入って喜んでるし。何かだんだん繋がって行くって感じがして、楽しいよ、この頃。」

 

そうこう言ってるうちにBMWは、エル・ヴィエントの前に着いた。

 

BMWを止めて店の扉を見てみると、まだ開店してなかったが、ガラス戸から明かりが見えたので、チャイムを鳴らしてみた。

予想していたよりもずっと早くマスターが出てきたので驚いたが、店の前に立つ僕らを見てマスターの方がもっと驚いたようだった。

 

「おやおや、皆さんおはよう。こんなに早くからおでましとは珍しい。昨日は夜遊びをしなかったのかな?まあいいや、ちょうど今客が来てて、話をしてたんだが・・・ああ、そうか、@LOVEの事で来たのか?これもシンクロニシティってことなんだよな。」

と、マスターは一人で納得して僕らを店に招き入れた。

なんでわかったんだろうと、僕らは顔を見合わせたが、中からとてもいいにおいがするので、それに引き寄せられるように店に入った。

 

店の中には、なるほど先客がいた。

まだ、30代の後半ぐらいだろう。ジーンズに革ジャンを着ていた。どこかであったような感じなのだが思い出せない。

僕がじっと顔を見つめているのに気づいて

「やあ、おはようございます。お久しぶりですねえ。」

と、その男性は言った。

「おはようございます。あの、えーと、どこかでお会いしたような気がしたもんですから、お顔をじっと見つめてしまいました、ごめんなさい。まだ、はっきりとは思い出せないんですが。」

男性は、感じのいい笑顔で微笑むと

「いえいえ、私もこちらのお店でお顔を何回か拝見した程度なんですよ。申し遅れました、私、結城と申します。ネットでは、麻呂と名乗っています。よろしくお願いしますね。」

「僕は、藍です。では、@LOVEの事を僕に伝えてくれってマスターにおっしゃったのは、結城さんなんですか?」

「そうなんですよ。その節は失礼いたしました。どうしても貴方にお伝えしなければと、そればかり考えていましたもので。申し訳ない。」

 

その時、久遠がすっとっんきょうな声を出した。

「麻呂さんて言うと、あのSpiritual MLの麻呂さんですか?管理人の?」

「はいそうです。御存知でしたか。メンバーさんですか?」

「初めまして、久遠と言います。」

「ああ、貴方が久遠さんですか、初めまして。確かタロット占いをなさってる方ですよね。」

「私、美樹です。よろしくお願いします。」

「ああ、美樹さん、憶えてますよ。ははは、何かオフ会みたくなってきましたね。」

「あたし、じゅんです、初めまして。麻呂さんとは、Healing MLで御一緒させていただいてます。」

「じゅんさんですか。こりゃ驚いたなあ。僕は、貴方の隠れファンなんですよ。貴方の気功のHPよくできていますよね。いつも感心してみさせていただいています。よろしくお願いしますね。

いやあ、皆さんとお会いできて嬉しいなあ。こういうのをシンクロニシティというんでしょうね。」

 

自己紹介が一通り終わったところで、マスターが珈琲を入れて持ってきてくれた。

「なんだ、皆知り合いだったのか。こりゃ傑作だ。世の中うまくできてるもんだ。紹介する手間が省けていいや。

ところで皆、どうせ腹減ってるんだろ?今うまいもん作ってやるから、ちょっと待ってろよ。」

というなり、返事も聞かずにカウンターの奥のキッチンに入ってしまった。

「マスター、さっき@LOVEの事とか何とか言ってたけど、どうしてわかったの?」

「そのことなら、結城さんから聞いてくれ。おれもさっき聞いたばかりなんだ。何だか面白くなってきたって感じじゃねえか。結城さん、すまねえがもう一度話してやってくれないか?」

「面白くなってきたのはそうだけどさ、何が何だかわかんない感じだよ。」

「藍さん、何が何だかわからないって言うと、あのサイトにアクセスできる人とできない人がいるっていうことに気づかれたんですね。これは面白い。その件で今日ここにいらっしゃったんですね。

私も何人かにあのサイトのURLを教えたんですが、その内の何人かからアクセスできないといわれましたよ。面白いですねえ。どう考えてもあり得ない話ですからねえ。まるでそれじゃあ、サイトの方で見せる人と見せない人を選んでいるみたいですからねえ。いやあ、面白いなあ。こういうことって自分の人生にも起こるもんなんですねえ。」

「麻呂さん、あのMLで何でも積極的に楽しむっていってたのは、地なんですね。いやね、いつもMLで、楽しそうなもんだから、あれは作ってるんだろうなんて勝手に思ってたんですよ。だって誰にでも落ち込むときってあるじゃないですか。麻呂さんにはそれが感じられなかったから、俺はてっきり。」

「いえいえ、私でも落ち込みますよ。いやなことが有ったりした時なんかね。そんなことしょっちゅうですよ。ただね、私は、回復も早いんですよ。落ち込んだら、すぐに外にでて行って、公園とかの緑のあるところに行くんですよ。そうするとね、不思議と立ち直れるんですよ。まあ、現金と言えば現金な性格なのかもしれませんがね。」

その一言で皆の顔に笑顔が広がった。いくらネットで知ってる人だとはいえ、実際に会ったときには、やはりそれは緊張するものなんだろう。いや、かえってネットでの人格と、実際に会ったときの人格のずれがあるものだから、こういう関係の方がよけい緊張するものなのかもしれない。

「実は僕も、何日か前まで落ち込んでいた時があって、何だか緑が見たくなって公園へ行って、緑の中のベンチで一晩過ごしたんですけど、何だか不思議な体験でしたねえ。朝の日の光とともに樹から何というかエネルギーをたくさんもらったような気がしましたよ。

樹ってやはりそういうものなんでしょうかねえ。」

それに対して、結城さんは丁寧に答えてくれた。

「そうですねえ。樹が自然に出しているフィトンチッドという物質があるんですが、そのフィトンチッドが、人間の嗅覚に作用して、その成分によって落ち着くんではないかという研究もありますがねえ。

私は違うと思いますよ。樹自体のもつ”気”、大地から吸い上げた”気”の作用だと思いますね。やはり樹は”気”が強いから木なんでしょうねえ。なんだか言葉遊びのようですが、案外そういう簡単なことなんじゃないんでしょうかねえ、言葉っていうものは。例えば、元気っていうのはもとの気っていうようにね。」

「それじゃあ、さしずめ結城さんは勇気ってことで。」

久遠が混ぜっ返して笑いをとったところにマスターがキッチンから出てきて料理を配り始めた。

「朝食っていうには少し遅めだから、ブランチってとこだな。」

「オープンサンドか、いいねえマスター。昨日から徹夜だったから軽めのもんでちょうどいいや。珈琲お代わりしていい?」

「ああ、カウンターのところにあるから勝手にのみな、セルフサービスだ。昨日から徹夜?何やってるんだお前さん達ゃ?夜遊びばっかしてると、お肌に悪いぞ、久遠。もういい歳なんだからな。

で、何してたんだ?食いながらでいいから聞かせてくれ。お前さん達ゃ、ただ、飯食いに来るようなタマじゃねえから、何かあったんだろ?」

「そうせかすなって、マスター。ものには順序ってもんがあるんだよ。全くいい歳してせっかちなんだからなあ。ちょっとは食わせてくれよ。」

「言ったな、久遠。てめえにせっかちだなんて言われたんじゃ、立つ瀬がねえじゃねえか。わかったよ。わかったから早く食え。早く食ってさっさとしゃべれ。何の話かとドキドキしながら待ってるこっちの身にもなって見やがれってんだ。」

 

久遠とマスターが顔を見合わせて笑った。なんだかこの二人はいつも軽口をたたき合っていて、見ていて飽きない。僕らは慣れっこだが、結城さんは、あっけにとられてサンドイッチをほお張ったまま、目を白黒させている。

「おう、マスター。こいつはうまいや。相変わらず料理の腕だけはたいしたもんだ。これでしゃべくりまくらなきゃいいのにな。」

「うるせえなあ、このしゃべりはサービスなんだ、俺の心遣いってやつよ。てめえみたいに金も払わないで行っちまうような野郎でも、客は客だ。この菩薩のような心がわからんとはねえ。てめえこそ、くっちゃべってる暇があったら、とっとと食って早くしゃべれ。」

 

「昨日はね、Club Goddessへ行ったのよ。」

久遠がなかなかしゃべりださないので、見るに見かねてじゅんが話しだした。

「ほお、Club Goddessか、一度俺も行ってみたいと思ってたんだ。よさそうな店らしいじゃないか。」

「そこまではよかったのよ、それから久遠の事務所に行ってね、@LOVEを見に行ったんだけど・・・」

と、じゅんが昨日の顛末を語った。

 

「なんだ、そういうことだったのか。」

「そういうことだったんですか。私も昨日@LOVEを見に行って、アクセスできなかったから今日マスターに会いに来たんですよ。マスターならなんかしらの情報を持っているだろうと思って。だけど今考えてみると貴方方に会うのが必然だったのかもしれませんねえ。」

 

久遠が珈琲を飲みながら言った。

「なんで今朝は繋がらなかったんだろう?ブックマークしておいたから、そっちから繋いだのに。だからタイプミスっていうのは考えられないし。」

「ねえ、やっぱりサーバが不安定なだけなんじゃないの?私は、サイトが、見せる人見せない人を選んでるなんて考えるより、そっちの方が現実的だと思うんだけど。」

美樹が空くまで現実的な意見を出した。

「そうよ。一度に何人か同時にアクセスされると、ダウンしちゃうようなサーバもあるし、そういうことなんじゃないの?きっとそうだわ。」

どうやら女性軍はそのように結論づけたらしかった。

久遠が言った。

「じゃあさ。見た内容を皆覚えてないっていうのはどうやって説明するんだい?

あ、そうだ。結城さんは@LOVE の内容について、ちゃんと憶えてますか?僕らは皆忘れちゃったみたいなんですが。マスターはどう?」

「そうなんですよね。私もちゃんと覚えてはいないんですよ。なんだか感動するぐらい良かったっていうことしか憶えてないんです。」

「おれもそうだな。内容を説明してくれっていわれて詰まっちまったぐらいだ。」

「これは私の個人的な意見として聞いていただけますか?」

と、結城さんが前置きしてから言った。

「私の感じですがね、あのサイトの内容は、頭で憶えるのではなく、心に直接入ってくるのではないかと思うんですよ。理解するのではなく感じてしまうんじゃないか、と思うんですが。」

「ああ、だから心ではわかっているんだけど、頭で説明はできないっていうことなんですね。なるほど、そういえば、あのサイトの内容は心に直接入ってきたような感じがしましたよ。」

と久遠。

「おれも内容を覚えちゃいないんだが、心にはしっかり残ってるよ。だから多分それであたりだと思うよ。だが問題は、どうやったらそんなことができるのかっていうことだよなあ、想像もつきゃしないぜ。」

マスターが、いつになく真剣にいった。

確かにそうだった。そんな技術など有りはしないのだ。

「まあいいか。そんなこと考えてもおれにはさっぱりわからん。そんなことがあり得るかどうかはわからんが、大事なのは内容だ、おれにとってはな。

チャネリングと同じだな。どうやるのかはさっぱりわからんが、どうやってチャネリングするかより、チャネリングの内容が大事だろ。

おれは内容が気に入ってるんであって、どうやったかについては知らなくてもいい。おれはそれでOKだ。何の問題もない。」

「いいよなあ、マスターは単純でさあ。」

「アホかおまえ。シンプル イズ ベストっていうだろ?ゴーイング マイウェイとかさ。」

「じゃあ、見れない人がいるのはどうする?」

「その人が必要としてないんだろ?」

「あ〜あ、これじゃ何のためにここまで来たんだかわかんないなあ。こういうのを無駄足って言うんだろうなあ。」

「あれ?だって飯食いに来たんだろ?」

「何とか言ってやってくださいよ、結城さん。」

 

結城さんは笑いながら言った。

「いや、私も基本的にはマスターの考え方しかないと思いますよ。マスターさっき必要がないから見られないって言いましたでしょ。あれ聞いてて、なんかレイキを思い出しちゃったんですがね。皆さん御存知ですか、レイキって。マスターとじゅんさんは勿論知ってますよね。」

僕は知らなかったのでそう言ったが、久遠と美樹もしらなかったらしい。

「レイキか。そうなのかも知れんな。なるほど。」

「マスター、一人で納得してないで教えてよ。気になるじゃないの。」

美樹が言うのにマスターは渋い顔で応じた。

「レイキってのはな、ヒーリングの手法のひとつなんだ。ニューエイジャーの中ではかなり浸透してるって言っていいだろうな。おれも教える資格は持ってるんだが、なにぶん名前が辛気臭くっていけねえや。霊気だもんなあ。いっそのこと名前変えちまおうかと思ってるぐらいさ。

一応説明しておこう。

レイキってのは、”生命が本来持っている(宇宙的な)エネルギー”を意味してるんだ。これは大正時代に、臼井ミカオ氏が命名したもんで、彼が鞍馬山にて授かった手当によるヒーリングを、霊気療法又はレイキヒーリングと言ってるんだ。今では、方法の簡単さや、効果の現実性などによって日本においてよりも、西欧のニューエイジャー の評価の方が非常に高くなり、よく知られたものになっちまったんだがね。

レイキヒーリングっていうのはな、生命エネルギーを回復することで失われた体のバランスを調整し、自己治癒力を高めるんだ。このヒーリングは自分だけじゃなく、他者の治癒に使え、肉体、感情、心、精神の全てに渡り健康を維持し、幸福にするって言われてるな。つまり人間が本来持っている生命エネルギーを回復し、健康や幸福感の増進に役立つということなんだな。レイキは特別な組織を持たず、基本的に個人個人でそのテクニックが伝承されてきたから、教義でも宗教でもない、実用品てとこだな。レイキヒーリングは他の医学的あるいは民族的療法と矛盾せず併用が可能だ。

ってのが、大ざっぱなレイキについての説明だ。 」

「なんか読んでるみたいだね、マスター。」と久遠が茶化す。

「じゃ、レイキってのはその臼井って人が作ったのか。」

 

「おれだって一応このぐらいは憶えてるんだ。ちっとは見直せ。それからな、レイキは臼井さんが作ったんじゃねえよ、発見したんだ、使用法をな。

もともとあるものの使用法を発見したんだ、電気と同じようにな。」

「ヒーリングって病気直しじゃなかったっけ?宗教でもやってるじゃん。」

「あほか、宗教でやってるのは客寄せのための病気直しだ。ウチにはいればどんな病気も治りますよってな。ヒーリングってのはなあ、病気直しじゃねえんだよ。病気ってのはなあ、本人がなりたいからなってるんだよ。それを、愛をもって受け入れるのがヒーリングなんだ。それによって病気が治ることもあるって考えてたほうがいいな。しいていえば、ヒーリングとは、安らぎ、安心かな。」

「なーんか、マスターが言うと胡散臭いのは気のせいなんだろうか。」

「名前が胡散臭いんだよ、名前が。さっきも言ったが、おれはこの名前が苦手なんだ。どうも霊なんてつくと辛気臭いし胡散臭くなっちまうんだよなあ。なあんかいいアイデア無いもんかねえ。人に言いにくくってしょうがねえんだ。」

「でも、宗教じゃなくても、うちでヒーリングするとこんな病気も治りますよってやってるじゃん。やってることは変わんないんじゃない?だって、それで人を集めるんでしょ?」

「あのなあ、身もふたもないことをいうなよ。そりゃ何だって一緒だろ?まあ、あんまりえげつないのはおれも好きじゃないがね。」

「なんでヒーリングで病気が治るのかなあ?」

「いい事を聞いてくれたねえ。そこが大事なところなんだよ。いいか。これは波動の考え方を適用すると分かりやすいんだが、例えば病気の人がいるとするよな、この人を仮にAと呼ぼう。そこにヒーラーBとCが来るとするよな。ヒーラーBは、天上界のエネルギーと繋がっているとする、いわゆる波動の高い高貴なエネルギーだ。ヒーラーCは、そこらのきつねさんなんかの、いわゆる霊的なエネルギーと繋がっているとする。さて、Aさんを治せるのはBかCか?」

「Bじゃないの?」

「ちがうんだな、これが。Aより波動が高ければ、BでもCでも治せるんだよ。これが面白いところなんだが、病気が治ったからと言って、必ずしもそのヒーラーが素晴らしいエネルギーと繋がっているという証拠にはならないんだ。霊界の動物霊だって、自分より波動の低い病人は、治せちゃうんだからな。」

「そうなんだ。僕はまたそう言う霊界の動物霊なんかは、悪さだけをするのかと思ってたけど、違うんだね。」

「ああ、いろんなのが居るからな。あとはそのヒーラーの問題だな。最初は、天上界のエネルギーと繋がっていたとしても、周りから崇め奉られて増上慢になったりすると、繋がってるエネルギーが変わることがよくある。そういう、霊界と通じてしまうんだな。これは怖いぞ、あとであっちの世界に帰ってからが大変だ。おれはその事もあって、霊気って言う名前が好きじゃないんだよ。なんだか霊界に通じていそうな名前じゃないか。」

「名前のことはもういいから、それがあのサイトとどういう関係があるのか教えてよ。必要がないから見られないってのとどう繋がるのかわかんないよ。」

「そうだったな、おれとしたことがつい愚痴っちまった。つまりな、レイキってのは必要なところにだけ流れる性質があるんだよ。エネルギーが足りないところにだけ流れて、必要の無いところには流れないんだ。」

「そうなんですよ。だからあのサイトも必要ない人は見られないんじゃないかって思ったんです。」

 

「なるほどね。そういうことか。」

 

久遠がそう言うのを聞いて、僕も今朝の出来事の意味がわかった感じがした。試そうとしたので扉は開かれなかったのだ。

「必要なときじゃないと見れないんですね。遊び半分じゃだめだということですね。何だかわかったような気がします。」

「今朝のことだろう。俺もそう思ったよ。」

久遠は、何か思いついたようだった。

「今度Spiritual MLで、オフ会あるでしょう。その時に皆に聞いてみるって言うのはどうかなあ。見た人と見れなかった人と、見た人にはその時の状況何かも聞いてみたいなあ。」

「ああ、いいですよ。でもそれだったらMLで直接聞いてみるのがいいんじゃないでしょうか?」

「そう言えばそうですね。じゃあ、管理人のお墨付きということで。早速帰ったらメールしてみますね。」

「僕はもう少しここにいるよ。マスターとはなしたいことがあるから。」

「ああ、わかった。結城さん、もしなんだったら、近くの駅まで送りましょうか?」

「それは助かります。じゃあ、ご一緒させてください。そうだ、藍さんもSpiritual ML入会なさいませんか?今度オフ会もありますんで、そちらも是非いらっしゃってくださいよ。」

「はい、是非お願いします。」

僕は、結城さんにメールアドレスを教えた。

「じゃ、これ帰ったら早速登録しておきますね。では、また。」

 

マスターと僕を残して皆久遠の車で帰っていった。

 

「なんだ、話って言うのは。」

マスターが聞いた。

 

「さっきのレイキの話なんだけどね。あれって誰でもできるのかなあって思ってね。」

「なんだ、興味が出てきたのか。そうだ、誰にでもできるよ。おれが教えた人の中では、自分では感じられなくても、できてない人ってのは今までいなかったなあ。やってみたいんなら教えてやるよ。」

「うん、お願いしようかな。で、どうすればいいの?」

「まず、レイキエネルギーを扱うためには、アチューメントと言ってレイキを流す回路を開く作業が必要なんだ。いってみれば、師匠から弟子へのイニシエーション、秘義伝授みたいなもんだな。これをやらないと、レイキエネルギーといわれている至高のエネルギーと繋がらないってわけだ。」

「じゃあ、誰でもそのアチューメントを受けてれば、その至高のエネルギーを受け取れるって事?簡単でいいね。」

「それがそうでもないから困るんだよなあ。こればっかりは人によるとしかいえないなあ。その伝授する人が、どの辺のエネルギーと繋がってるのかは、自分で判断するしかないだろう。その人の行動を見ていればわかると思うよ。おれはそうやって判断してきたからそうとしかいえないがね。

例えば、どんなに口ではいい事をいっているとしても、行動が伴わないなら、それは詐欺と同じだ。特にこういう精神世界系の人は、そこに気をつけないといけないなあ。知識だけで体験が伴わないって人も多いからな。本で読んだ知識だけで、私は凄いっていってる人は、その人の行動を見ていればわかるよ。

あとは、人を自分の思う通りコントロールしようとする自称”導師(グル)”にも気をつけないとな。こんなのに取っ捕まっちまったら、一体誰のための人生何だかわかんなくなっちまう。もちろんそういうインチキグルは、あなたのためだっていうんだけどな。そんなのよく考えてみればわかるだろう。自分のことは、人に決めてもらおうとしないっていうのが鉄則だな。

そういう行動をする人からは、伝授してもらわないほうがいいとおれは思う。いってみれば弟子が師匠を選ぶって事だな。これは大事なことだぞ。お前さんが、おれのことを少しでも信頼していないんだったら、おれからの伝授は考え直したほうがいい。」

「マスターのことは信頼しているよ。」

「ああ、そうかもしれん。だが良く考えてみることだ。この手の伝授を”今この場できめろ”なんていうやつほど信用がおけないって事も覚えておけよ。自分で気付かないうちにコントロールされて、信頼させられていたって事もあるからな。その場の勢いだけで決めちゃいかん。」

「マスターいやにこだわるねえ、コントロールってことに。何かいやな思い出でもあるの?」

「あるさ、そりゃ。まだ若かったころにはいろいろと失敗もしたんだ。自己啓発セミナーとかな。散々コントロールされまくったよ。そのおかげで今のおれがあるって云う言い方もできるがな。

とにかく他人に自分の人生を任せちゃいかん。人の言う通りに生きちゃいかんのだ。それさえ忘れなけりゃ大丈夫だ。」

 

 

ちりーんんん・・・。

 

 

その時、店のドアの鈴が鳴った。

お客さんが来たらしい。

そういえばもうすぐ昼のランチタイムの時間になろうとしている。

 

昨日からずいぶんと時間が経ったような、それほどでもないような不思議な感覚があった。

 

僕は何の気なしにドアの方へ視線を向けた。

 

 

女性がドアのところに立っている・・・?

 

言葉にならない衝撃が僕の身体を駆け抜けた・・・!

 

 

初めて見る顔のはずだった。

こんなにきれいな女性は、僕の知り合いのなかにはいないから。

 

 

だが!

 

僕の感覚は、全然別のことを訴えかけていた!

 

どこかで会ったことがある!それも一度や二度ではなく、何十回いや何百回となく出あっている!

デジャ・ヴなんて物ではない、強い確信が僕を襲った。

生れて初めての感覚だった。僕はどうしたらいいのかわからなくなって、身動きが取れなくなってしまった。思考も同時に停止した。

 

 

 

 

 

to be continued.....3ed stage 

 

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