第11回 「鮮烈に野郎登場!」
 

 ついに野郎を出すぞ。
 ――え? 恥ずかしいなあ……ボクチン、まだ心の準備が……。
 だれがおまえを出すと言ったあ! バキィ〜〜ッ!
 ――ぐはあ……若さとは、こういうものかぁ……。

◆野郎キャラはどうやって出す?
 終わり方として美紀案と咲美案があったが、ヒロインを立てるために美紀でいこう。こんな感じだったな。

【美紀】「またエミリーに技かけられたんだって?」
【洋平】「ああ、ひどい目に遭ったよ。エミリーのやつ、手加減ってものを知らないんだから。いてて……」
【美紀】「だいじょうぶ?」
【洋平】「さあ。骨折れたかも」
【美紀】「お医者さん行ったほうがいいよ。保健室、ついていこうか」
【洋平】「いらねえよ」
【美紀】「そう? 気をつけてよ」
【洋平】「突然やってくる災難に注意なんかできるか」
【美紀】「そりゃそうだけど。――洋平も柔道やればいいのに」
【洋平】「あんな汗くさいスポーツできるか」
【美紀】「でも、面白いよ」
【洋平】「おれは面白くない。おれ、汗かいてねじりハチマキ締めてっていうのいやなの」


 ここから続き行くぞ。
 ――ねえ。今回って、野郎キャラは3人いたよね。
 今井という友人。普通の男だな。それから皆本というか弱い少年。そして、自分が一番〜〜の草薙。
 ――登場させる順番ってあるの?
 ない。赴くままに書けばよい。
 ただ、長い伏線を張るときには、伏線に絡むキャラを初めのほうに出しておいたりするな。
 ――ふうん。
 シナリオはできたか。
 ――ふっふっふ、もう出来てるよ〜ん。
 よし。見せてみろ。


助手の例

【ボクチン】「ぼくちん、縛られるの大好き」
■■■(A050&A000)を背景B000に重ね処理
【洋平】げ……ボボ……。
【美紀】「(声ときめかせて)あ」
■■■(A050&A000A照れた美紀)を背景B000に重ね処理
【ボクチン】 ――ふっ、またキックオフ状態だぜ。もてる男は困るな。
【ボクチン】「おはよう、ボクのかわい子ちゃん。今朝はぼくちんの夢でも見たかな」
【美紀】「う、うん……ちょっとだけ……」
【ボクチン】「その恥じらうところがベリー・ラブリーだよ、美紀チャン」


 ぷる、ぷるぷるぷる……。
 ――あれ? どうしてふるえてるの? ひょっとして感動した?
 だれがじゃ〜〜〜!
 シナリオに自分を出す馬鹿がおるか〜〜〜〜〜〜っ!
 超絶秘技! 脂肪ねじり回し!
 ――うぎゃあああああああああっ!

◆変な野郎は衝撃的に登場させよう
 ――ほげえ……痛いよう。
 自業自得だ。
 よいか。おまえはダブルで馬鹿なことをしておるのだぞ。
 まず、1つ。ボクチンが画面に映っておるのに、ボクチンの内面に入っておる。
 ――なんで悪いの。
 ゴツン!
 ──ぎゃふん!
 馬鹿者! ゲームは基本的に一人称なのだ! 特殊な場合を除いて、姿の映らない主人公の一人称なのだ!
 ――でも、出たかったんだもん。
 出るのは貴様の腹だけで十分だ!
 ――わあ、怒らないでよう。
 くだらぬことを言うからだ。
 次、2つ。
 ボクチンの人格が一定しておらん。
 ――そうかな。ボクチンなりに統一取れてるけど。
 「縛られるのが好き」とのたまう馬鹿男が、なぜその次に「今朝はぼくの夢を見たのかな」などとキザな台詞を吐けるのだ。
 ――ぐっ。
 どうだ、申し開きできるか。
 ――ぐぐぐぐ……ぐぞう。
 わはは。
 ただ、1つだけよいところがあるな。
 ボクチンがすげえろくでなしという印象だけはみごとに植えつけている。ファーストインプレッションは大切だ
 変なやつ、キザなやつといった、個性的なキャラは個性的に登場させよう。普通に登場させてしまうと埋没するぞ。

◆キャラクターの性格を忘れるな!

 ――ねえねえ。
 なんだ。
 ――もう一度書き直したから見て。
 よかろう。またふざけていたら、顔面のっぺらぼうにしてやるぞ。

SE006 ジャジャジャ〜〜ンとエレキギターの音
【今井】「いぇ〜〜〜〜い」
■■■(A030&A000)を背景B000に重ね処理
【今井】「よう、洋平。ま〜た朝から一発かまされたんだって? なさけねえなあ」
【洋平】「うるせ」
【今井】「カハハハ。帰宅部なんかやってるから身体なまってきたんじゃないか」


 ――どう? 前よりよくなったでしょ。
 台詞自体はよろしい。しかし。
 ――しかし?
 今井ってどういう性格だった。
 ――あ。

名前:今井 章 (いまい あきら)
性格:普通。サボる勇気がないので授業にはついてってる


 おまえの書いたシナリオのどこが普通じゃ〜〜〜っ!
 ――わあ、怒らないでよう。
 ならば、決してキャラクターの性格を忘れるな
 えてして、人は自分が設定したキャラクターの性格を忘れ、シーンに合わせてキャラクターを暴走させてしまう。
 たとえば。
 寡黙な女の子という設定なのに、ついつい楽しくおしゃべりしている恋人たちを描きたくて寡黙な女の子にぺらぺらしゃべらせてしまったり……。
 ――うっ。
 寡黙な女の子が饒舌になるには、それなりの理由が必要だ。普通の人間今井が変になるのは別に構わんが、変になる理由が必要なのだ。


助手の例2(書き直し)

【洋平】「あんな汗くさいスポーツできるか」
【美紀】「でも、面白いよ」
【洋平】「おれは面白くない。おれ、汗かいてねじりハチマキ締めてっていうのいやなの」
【草薙】「おまえがハチマキを締めたところで、せいぜい糞をひねり出せるぐらいだろう」
■■■(A050&A000)を背景B000に重ね処理
【洋平】げ……草薙。
【草薙】「無気力な人間が何をしようが、所詮無理無駄無謀、まったくの無意味というものだ」
【美紀】「ちょっと草薙くん。そんな言い方ないんじゃない」
【草薙】「そうかね? 真実は常に鋭く厳しいものだ。これでもまだ手ぬるいほうだがね」
【美紀】「あんまり人のこと悪く言うの、よくないと思うけど」
【草薙】「例外もあるさ」
【美紀】「けど」
【洋平】「美紀、やめとけ。こんな馬鹿構うことねえよ」
【草薙】「馬鹿だと? 馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのは心外だな」
【洋平】「真実は常に鋭く厳しいものだ」
【草薙】「フン、オウムみたいにまねしかできんのか」
【洋平】「じゃあ、オリジナル言ってやろうか。プライドうんち」
【草薙】「弱い犬ほどよく吠える。せいぜい暴言でも吐いておけ」
■■■A000を背景B000に重ね処理
【美紀】「洋平、草薙くんに何かした?」
【洋平】「別に」
【美紀】「なんか洋平に絡んでくるよね」
【洋平】「生理なんじゃねえの」
【美紀】「ばか」


◆性格はいくぶん強調して行動に反映させよう!
 ――どう?
 よいではないか。草薙という男が実によく立っておる。
 自分が一番というところが出ているかどうかは疑問だが、気に入らないぶりは完璧に発揮されているな。第一印象で、すげえいやなやつという感じがする。
 ――いやなやつは、徹底的にいやにしたほうがいいかなと思って。
 その通りだ。
 いやなやつにしろ、なんであれ、性格は、いくぶん強調して行動に反映させるのだ。


◆性格とは行動なり
 よいか。
 性格とは設定のことではない。
 行動だ。
 性格とは行動なのだ。
 たとえば、神経質なやつがいるとする。
 マクドナルドに行った。
 行列ができていて、なかなか自分の順番が来ない。神経質な野郎はどうする。
 ――いらいらする。
 行動的にはどうする。
 ――チッて舌を鳴らしたり、そわそわしたり。
 そうだ。
 性格は必ず行動に出るのだ。
 だから、行動によってキャラクターの性格を描写するのだ。
 女の子キャラの場合、絵がかわいければ感情移入はしやすくなるが、野郎キャラは恋愛の対象ではないのでそうはいかない。
 プレイヤーに印象づけ、ストーリーの支えとするためには、女の子と同じくらい注意して野郎の行動=性格を描く必要がある。
 男を描けぬ者に女は描けぬ。

 

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