フィナーレは華々しく幕を下ろした。 だが、すべてに幕を下ろすにはまだひとつ残っていた。 栄誉の儀である。 各々の競技部門において優秀だった者は名前を読み上げられ、直接家元の手によって表 彰されるのである。 それこそは色道を歩む者の最高の栄誉であり、求めてやまないものであった。 だが、この日の栄誉の儀だけはいつもとは雰囲気が違っていた。 だれもがあるひとりの少年のことを思い、フィナーレを飾った「愛の舞」の結果を、い まかいまかと心待ちにしていたのだ。 それはみどりも同じだった。 彼女自身が一番よく知っているように、はじめこそ夢彦はかたさがあり、ぎこちなかっ た。自分がつくりだした観衆の視線に脅え、自分を見失っていた。だが、結果的に自分を 見いだした。そして今大会最高の快感指数をたたき出したのだ。審査員の絶対評価もある ことを考えると一位とはいかないまでにしても、総合評価で最低三位以内には入るにちが いない。そう信じていた。それは、他のだれにしても同じことであった。 「だいじょうぶよ、きっと」 ときおり愛しそうに夢彦を抱き寄せ、頬を押しつけながらみどりは言った。 「がんばったんだもん。快感指数だって一番だったし、いくときもいっしょだったんだも ん。いくら大お師匠様が厳しくても、ちゃんと見てくださるわよ」 夢彦はみどりの胸に頭を預け、うなずいた。 やがて、とうとう「愛の舞」の発表が始まった。 「入賞」 とスタッフが読み上げた。 周囲の空気が変化しはじめた。 だれもがこれから始まる期待の盛り上がりに、一種の興奮を感じていた。 だが、それは来なかった。 「第六位。愛川みどり・鏡夢彦組」 耳には聞こえないが嘆息がもれた。少しばかり騒ぎが起こったが、すぐに静かになった 。 死に切った沈黙のなかを、みどりと夢彦は歩んだ。 みどりは我が耳が信じられなかった。 最低でも三位と信じていたのに、ぎりぎり入賞の六位だなんて、まるでうそを見せられ ているようだった。 だが、うそではなかった。 家元は賞状を取り上げると一枚ずつ渡し、これからもがんばりなさいと声をかけた。夢 彦には無言で視線を当てただけだった。 みどりは家元に見つめられてなにか言おうとしたが、微笑まれて言葉を封じられてしま った。 二人は次の表彰者のために、なにもなく静かに家元の前を去った。 みどりはそのときはじめて夢彦の顔を見たが、夢彦はただ沈黙しているだけだった。 結局、優勝したのは夢彦の前に舞った二人組だった。二人ともかたく抱き合い、涙を流 して抱き合っていた。家元は深い情けの言葉をかけているようだった。 栄誉の儀が終わり、技合わせは幕を下ろした。 だが、みどりのなかでは幕は下りていなかった。 「大お師匠様」 アフロディアに乗り込もうとする家元をみどりは呼び止めた。 「少しお待ちください。お話があります。どうして、どうして若様は――」 駆け寄ろうとしたみどりの前を塞いだ者がいた。 真田だった。 「みどり様、おやめなさい」 「真田さん、どいてください」 「いいえ、そうはまいりません。あなたもわかっているはずです。なぜ、若様が低い評価 を受けたかを。たしかに若様は数値こそ高かったかもしれません。しかし、セックスとは 心でするものなのです。ただ乳房を弄び性器と性器を結合させるものではないのです。若 様が果して心でしていたか、あなたにはわかっているはずです」 真田は踵を返すと、アフロディアに乗り込んだ。 みどりは動けなかった。 「みどりさん、帰ろう」 気がつくと夢彦が肩に手をかけていた。 さみしい目であった。 瞳のなかが悲しそうにきらめいていた。 「鏡君……」 「もう終わったんだ。それに、一応入賞したんだから」 夢彦は先に歩きだした。 みどりはその後ろ姿を見送りながら、自分よりも強く打ちのめされている少年の存在に 気づいていた。